但馬

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1825年の福中町の造り物「鯨取」を描いた図。「くじら大キサ三十尋」とある(姫路市立図書館蔵「幾藏図冊」より)
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1825年の福中町の造り物「鯨取」を描いた図。「くじら大キサ三十尋」とある(姫路市立図書館蔵「幾藏図冊」より)
1913年、姫路の龍野町3丁目が町家の屋根上に制作した「草刈童子」。牛の背中で笛を吹く人形や岩山が見える(大崎英雄氏蔵、播磨国総社射楯兵主神社提供)
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1913年、姫路の龍野町3丁目が町家の屋根上に制作した「草刈童子」。牛の背中で笛を吹く人形や岩山が見える(大崎英雄氏蔵、播磨国総社射楯兵主神社提供)
2013年3、4月に開かれた「三ツ山大祭」でライトアップされる3基の「置き山」=姫路市総社本町
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2013年3、4月に開かれた「三ツ山大祭」でライトアップされる3基の「置き山」=姫路市総社本町
1928年、姫路駅前の光源寺前町(当時)に登場した造り物「加藤清正の虎狩」。通りを挟んで、屋根に橋掛かりを渡している(播磨国総社射楯兵主神社蔵)
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1928年、姫路駅前の光源寺前町(当時)に登場した造り物「加藤清正の虎狩」。通りを挟んで、屋根に橋掛かりを渡している(播磨国総社射楯兵主神社蔵)
1953年、姫路の御幸通りに現れた「五条の橋」
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1953年、姫路の御幸通りに現れた「五条の橋」

 突然ですが、大きさ60メートルの鯨って想像できますか? 何でこんなことを尋ねるかというと、江戸時代の姫路の人たちは、60メートルの鯨の造り物を作ってしまったからである。「但馬のギモン」造り物シリーズ4回目は、われわれが知る「一式飾り」とはまるで別世界の、姫路番外編-。(長谷部崇)

 この「伝説」の造り物は1825(文政8)年、姫路城下の福中町がこしらえた「鯨取」。大きさは30尋(54メートル)とも33尋(59メートル)とも記録されている。これは世界最大の動物、シロナガスクジラのおよそ倍の大きさだ。当時の筆写本「幾藏図冊」などによると、木綿を3500反使い、鯨の体を黒木綿で覆い、白木綿で高さ8間(14メートル)の潮を吹かせた。町家の大屋根に木造船30隻と漁師の人形70体を揚げ、軒屋根には波模様の木綿もしつらえたという。

 幾藏図冊には「一丁中屋根ハ惣海也(1町中の屋根は全て海である)」と記されており、大阪芸術大学の西岡陽子教授は「町を丸ごと造り物の世界に変えてしまったのでしょう」と解説する。

    ◆◆◆

 「姫路では、数十年に1度の祭りに壮大な造り物がいくつも現れ、城下町全体がアミューズメントパークのようになったんです」と、播磨学研究所(姫路市)の小栗栖健治副所長(64)。播磨国総社(同市総社本町)の「一ツ山大祭」(60年に1回)と「三ツ山大祭」(20年に1回)では江戸期以降、町家の屋根上に飾る「屋上造り物」が絶大な人気を集めた。

 例えば1854(嘉永7)年、江戸期最後の三ツ山大祭では、城下町の十数町がそれぞれ造り物を制作。「羅生門」「義経の八艘飛び」「業平東下り」「安宅の関」など、20間(36メートル)や30間(54メートル)のものがざらだった。

 「通りに連なる町家の屋根全てを舞台にしたのでしょう。壮観だったと思いますよ」と小栗栖副所長は話す。西岡教授も「20年に1度の大祭ですから、どんな造り物を出すか、どの町も20年考えることができたわけです。その間お金もためたでしょう。人形師や大工などプロの職人も関わっていたはずです」。1854年の三ツ山大祭は、1日約10万人でにぎわったという。

    ◆◆◆

 姫路の屋上造り物の出現は大坂より古いようで、1793(寛政5)年までさかのぼる。一ツ山大祭は神門前に高さ18メートルの山が一つ、三ツ山大祭では三つの山が造られる。山のてっぺんの「山上殿」に迎える神々に見てもらおうと、各町が屋根上に造り物を掲げたのが由来とされる。

 こうした屋上造り物は、但馬で見られる同一種類の日用品で作る「一式飾り」とは、少し趣が違ったようだ。造り物には一式飾りとは別に、西岡教授が「人形つくり」と呼ぶジャンルがある。等身大の人形を配し、芝居や伝説の一場面を再現するのが特徴で、素材は「張りぼて」など、一式にこだわらない。大型化も可能で、姫路の屋上造り物はこの系譜だった。

 一方で「祭りの期間が終わるとつぶす」というルールは同じ。小栗栖副所長によると、姫路の造り物は「晴天七日」といい、雨天の日を除いて7日間飾られた後、祭りの終了と同時に全てつぶされた。先の1854年の三ツ山大祭では、姫路藩の家老が展示を1日延長するよう求めたが、住民らは聞き入れなかったという。

 姫路の造り物は戦災や社会構造の変化で、町家が商業ビルに姿を変えるにつれ、1953(昭和28)年の三ツ山大祭以降は形骸化していたが、2013年の同大祭で地元の高校生や大学生が、江戸時代の悲恋物語を描いた「お夏・清十郎」など10基を制作し、復活させた。小栗栖副所長によると、姫路の高齢者に昔の三ツ山大祭の思い出を聴くと、造り物の話題が一番盛り上がるそうだ。

    ◆◆◆

 ううむ、完全に「姫路のギモン」になってしまった。そろそろ、但馬に戻ってこの造り物シリーズを締めくくろう。そう考えていたある日、朝来市生野町の史料館「生野書院」の小椋俊司館長(77)がこんなことを言い出した。

 「実は、江戸時代の生野の日記に造り物のことが書かれてあるのを思い出しましてね」

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