但馬

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「掛屋市兵衛御用留日記」=生野書院(朝来市教委蔵)
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「掛屋市兵衛御用留日記」=生野書院(朝来市教委蔵)
かつて造り物が飾られた内山寺の池=朝来市生野町
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かつて造り物が飾られた内山寺の池=朝来市生野町
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 建築物や動物などを模した「造り物」。現代の養父、朝来から江戸期の大坂、姫路まで、これまで4回にわたって取り上げてきた。おそらくこのシリーズ最終回となる今回は、兵庫県朝来市生野町を取り上げる。大坂や姫路で造り物が全盛だった江戸末期、生野でも造り物の記録が残っているそうだ。その舞台は、今はなき生野代官所である。(長谷部崇)

 「これなんですけどね」。生野書院(朝来市生野町口銀谷)の小椋俊司館長(77)が見せてくれたのは、幕末から明治にかけて、生野の藤本市兵衛という人物が書いた「掛屋市兵衛御用留日記」(市指定文化財)の解読文だ。

 例えば、幕末の1865(元治2)年2月4日にあった初午祭事の記述には、「作りもの」が列挙されている=日記①。「『御表』とか『御広間』とか、これは全て生野代官所のことです。『御運上蔵』というのは銀を納める蔵、『たまり』は仮牢です」と小椋館長が解説する。

 「作りもの」の制作者は、「生野の三大山師」や地役人ら。初午に合わせて生野の有力者たちが代官所に集い、七福神や大なまず、十二支などを作って、地域の人々に披露したようだ。日記の最後には「今年の初午行事は、近年でもまれなほど、にぎわった」とある。

 その9年前、1856(安政3)年の初午行事にも、喫煙具で鶴のつがいを作ったという記述がある=日記②。日記で紹介されているような、炭、乾物、喫煙具などを使った造り物は、江戸時代に大坂で出版された種本「造物趣向種」にも出てくる。生野銀山の関係で大坂とつながりが深かった生野では、造り物もいち早く伝わっていたのだろうか?

    ◆◆◆

 現在、但馬で造り物が続いているのは、養父市八鹿町▽同市広谷▽朝来市和田山町▽同市山東町▽豊岡市日高町-の5カ所とみられるが、調べると、かつては旧朝来町や旧生野町などの朝来市南部も盛んだったようだ。

 同市新井の金毘羅神社周辺では、1955(昭和30)年前後まで各隣保が通りに面した家々で、趣向を凝らした造り物を飾ったという。住民の男性(88)は、子どものころ住んだ同市石田(当時は中川村)でも、「毎年8月19日に造り物が出ていた」と懐かしむ。

 戦前、日下さんは虎の造り物を手伝ったのを覚えている。竹で組んだ骨格の上に、黄色と緑のコケを敷き詰めて虎のしま模様を描き、爪は鎌の刃を使った。集めたコケが足りず、虎の下半身は隠したが、二手に分かれた木の幹の間から、ガッと身を乗り出す姿は迫力があり、大好評だった。

 「あちこちから材料を借りてきて、金物やったら金物ばかり、瀬戸物やったら瀬戸物ばかり使った。夜、盆の大踊りが済むと、集まってきた人たちがつくりもんを見て回るんじゃ。村の中で評価し合って、1等、2等と付けたなあ」。ルールや楽しみ方は、今と変わらないようだ。

 生野町小野の男性(98)によると、市川に架かる小野大橋では、小野地区と対岸の奥銀谷地区が、盆の時期、橋の両端にそれぞれ造り物を飾ったという。男性は「戦争で兵隊に行くまでは確かにあった」と証言し、別の住民によると戦後まで続いていたようだ。旧奥銀谷小学校(同町奥銀谷)から山道を約20分登ったところにある内山寺(1954年に廃寺)でも、池の中に弁財天を祭る小さな島があり、昔は檀家たちが造り物を据えたという。

 南但では今も残る山陰街道沿いのルートと別に、かつては但馬街道沿いにも、“造り物のベルト地帯”があったのだ。

    ◆◆◆

 「造り物の文化史 歴史・民俗・多様性」(勉誠出版)によると、現在、全国数十カ所で造り物が残るが、高度成長期に途絶えた地域も多いという。造り物は近年まで、民俗研究の対象外にあった。市町村史でも存在がほとんど無視されてきた上、祭りの翌日に破棄されるため、記録にも残りにくいという。

 また近年は造り物のルーツである「一式飾り」から離れ、ジオラマのような精巧さを求める傾向が全国的に広がっている。大阪芸術大学の西岡陽子教授は、種本「造物趣向種」を書いたのが狂歌師だったことを挙げ、「滑稽や風刺を盛り込む狂歌の精神を、日本人が失いつつあるということではないか」と指摘する。

 造り物の魅力って何だろう? 「こういうものがあることで、住民同士が顔と顔を合わせ、地域が形作られる。すごく大切なものだと思うんです」と、播磨学研究所の小栗栖健治副所長。大阪くらしの今昔館の谷直樹館長は「今や全国的にも貴重な文化。例えばサミットを開くとか、造り物が残る地域でもっと横のつながりを図ってみては」と、地域連携による活性化を提案する。

 来年は、但馬の街角にどんな造り物が現れるだろう?

■「掛屋市兵衛御用留日記」からの引用(一部省略)

日記①(元治2年2月4日)

作りもの

御表江玉川布さらしからくり

御広間江大なまず大岩ニ押へられ候図

御運上蔵前七福人からくり

たまり江見立もの十二支

北御長屋の前へ布袋のからくり

南長屋の下も江 炭細工松竹梅 こんぶニ而芭蕉いぬころ 上々出来

菊池様前へ見立細工

日記②(安政3年2月5日)

早朝より作りものに相掛かり

鶴つがい 煙草入きせる

煙草の葉ニ而拵候事

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