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岸田川で育ったアユ=新温泉町七釜
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岸田川で育ったアユ=新温泉町七釜
“完全武装”で友釣りに挑む記者=新温泉町七釜
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“完全武装”で友釣りに挑む記者=新温泉町七釜
おとりの様子を把握するためのカラフルな目印=新温泉町七釜
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おとりの様子を把握するためのカラフルな目印=新温泉町七釜
アユの塩焼き、唐揚げ、天ぷら=新温泉町栃谷
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アユの塩焼き、唐揚げ、天ぷら=新温泉町栃谷

 兵庫県新温泉町を流れる岸田川。河口から約2キロ上流の浅瀬に、釣り人が点々と並んでいる。一様に身長の5倍ほどはある長ざおを構え、清流に糸を垂らして、魚が仕掛けにかかる感触「あたり」を待つ。かくいう記者も、その中の1人としてさお先に全意識を集中。狙うは初夏の訪れを告げる“銀鱗”、天然のアユだ。岸田川漁協が誇る名人に教えを請い、アユ釣りに初挑戦した。(末吉佳希)

 岸田川は同町南西部、鳥取県との境にある扇(おうぎ)ノ山(せん)を源流に、日本海へ注ぐ全長約24キロの2級河川。県内有数の清流には天然アユやシロザケが遡上(そじょう)し、豊かな生態系を育んでいる。同川でのアユ漁は今月1日に解禁されたばかりだ。

 午前9時半。「この人に教われば大丈夫や」。同漁協の杉谷勉組合長(82)が紹介してくれたのは、副組合長の井上親司さん(71)。釣り歴40年以上の大ベテランで、全国の河川を巡り大物を釣り上げてきたという。防水ズボンにライフジャケット、偏光グラスなどの“完全武装”で川に入った。

 挑戦する釣法(ちょうほう)は、他のアユが縄張りに入ると体当たりして追い払おうとする習性を利用した「友釣り」。「おとり」に使う養殖アユの鼻に輪を通して尻びれに三股の針を掛け、そっと川へ放つ。さあ勝負。

 糸を出し入れする「リール」はなく、さおの傾きだけで糸を操る。糸を張っておとりを刺激すると本流に向かい、段差のある流れ込みに定着した。瞬時に井上さんから「目印の動きをよく観察すること」との助言。糸には約20センチ間隔でカラフルな目印が並び、動きでおとりの状況を把握する。

 目印を5分ほど凝視し続けたが全く変化がない。「あかん、根掛かりや」。川底の石に針が掛かり、おとりが動けなくなっていた。手を突っ込み、針を外す。

 1時間半ほど経過し、突然、目印が糸と一緒にぐるぐる回る。「掛かってるかも」という井上さんの声に合わせ、ゆっくりと糸を引き寄せる。確かに何かが釣れているが、薄茶色のしま模様と大きな頭から尾にかけて尻すぼみのシルエット。アユではない。「アユカケや。アユより珍しい魚ですわ」と井上さんが笑い飛ばした。

 1時間の休憩を挟んで午後1時半。川辺にすむカジカガエルの鳴き声や、空を舞うトビに気を取られていると、目印が一気に下流へ向かった。アユだ。構えた網に糸を寄せるが宙に舞ったアユは網の横を通り過ぎ、背中側へ。焦っているうちに針が外れてしまった。「友釣りは釣れたアユを次のおとりにする『循環』が大切。今のは10匹が逃げたのと同じ」という井上さんの言葉にうなずく。

 気を取り直し、流れ込みの多いポイントに移動。おとりは井上さんが釣り上げた天然アユに変えた。生きがいいはずなのに、なかなか思うようにアユが動かない。「魚にも個性があるんや」と井上さんがさおを持ち、強めに糸を張ると反発するように魚が動きだした。名人芸を垣間見た。

 流れ込みに入った途端、目印が下流へ。「群れに入った」と井上さんがつぶやく。上流に糸が走り始めると井上さんが「今や」。さおを立てると、水中で銀色の腹が二つ光った。「今度こそ」と心の中で唱え、ゆっくりと網に引き寄せ、なんとかキャッチ。思わず「やった」と声が漏れた。

 鋭いあごにどん欲な顔つき、鮮やかな黄色のひれ。井上さんがなにやらアユの下顎を見る。「下顎側線孔(かがくそくせんこう)」という斑点があり、天然は両脇に四つずつ並んでいることが多いという。「天然もんや」と井上さんは笑顔を見せた。養殖アユは斑点が三つずつだったり、ふぞろいだったりするという。

 長時間立ちっぱなしで疲れ切っていた足腰が軽くなった。おとりを付け替えると、あっという間に2匹目が釣れた。

 日が傾き始めた午後5時。釣果に満足しながら、川からあがり、さおを片付けていると、記者の挑戦を聞きつけた常連客がアユ数匹を分けてくれた。「仲間が増えためでたい日や。どうぞどうぞ」。温かい言葉に目頭が熱くなった。

 釣れたアユは塩焼き、天ぷら、唐揚げにして、酒のあてに。食べながらあっという間に過ぎた1日を思い出す。魚が跳ねてさおに伝わる振動、張り詰める糸、さお先のしなり。「あの感覚をまた味わいたい」。どうやらアユの魅力にとりつかれたようだ。

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