私だけのかばん完成 初のオーダーメードに記者が挑戦 豊岡

2021/07/20 05:30

ファスナーテープの色見本=カバンツクリエーション0203

 「かばんのまち豊岡」で、私だけのかばんを作ってほしい-。兵庫県豊岡市に着任した時からの念願だったオーダーメードのかばんに挑戦しようと、宵田商店街(愛称・カバンストリート)近くのかばん工房「カバンツクリエーション0203」(同市中央町)を訪れた。(石川 翠)


 革のショルダーバッグやナイロン生地のリュック、小物などが並ぶ小さなお店に入ると、かばん職人の中野嘉容(よしたか)さん(52)が笑顔で迎えてくれた。
 中野さんはこれまで、全盲の男性のために、体に固定され、白杖を持っているときも両手がふさがらない「ホルスター型」のかばんを製作したり、コーヒー店主の依頼でコーヒー豆を入れる麻袋を活用したトートバッグを作ったり。お客さんのニーズに応じたかばんを提供してきた。
 年齢は33歳。取材時に常に持って歩く小物入れに使いたい。まずは打ち合わせからと、自分の持ち物をざらざらっと机の上に出してみた。スマートフォン2台と手帳、ICレコーダー、名刺入れ、小銭入れ、ペン3本、イヤホン-。「これがぴったり収まる、小さくて軽くてかわいいかばんを」と注文。希望の形と色を伝えた。
 人生初のオーダーメードかばん。張り切って臨んだが、中野さんは「もっとぼんやりしたイメージのまま来られるお客さんも多いです。ゆっくり話をしながら決めていくのも楽しいですよ」と、にこやかだ。
 価格は大きさや形に加え、生地が店にあるか取り寄せるかなどによって異なるという。1万円以内でお願いします-と伝えた。
 「とりあえずサンプルを作ってみましょうか」。さっと立ち上がり、奥の作業スペースへと向かった。
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 持ち物が入る最小のサイズを測り、展開図をさらさらっとノートに描き終わると、おもむろに布をジョキジョキと裁断し、すぐにミシンへ。ダダダダッと縫い上げると、立体の入れ物が組み上がった。
 「舟形」と「スクエア」の2種類の形を作ってくれ、持ち物を入れてみて見事ぴったりと収まったスクエアに決めた。
 形はすぐに決まったが、パーツ選びには1時間ほどかかった。当初は紺色に決めていた生地も、サンプルで出来上がった白色がどうしてもかわいく見え、いきなり計画変更。外ポケットもファスナーもショルダーのひもも考え直しだ。
 ファスナーは市内の専門卸業者に注文。「パーツ専門店だけではなく、ミシンのメンテナンスなどを頼める業者もある」という。さすがかばんのまちだ。
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 数週間後、店を再び訪れると、全てのパーツがそろっていて、目の前でミシンがけしてくれた。のっぺり見えた生地にステッチが入ると、とたんに“表情”が出てくる。ファスナーやひも、マチも縫い合わせ、布の端の処理を全て終えた。
 中野さんが「この瞬間が一番ドキドキして楽しい」と言いながら、立体になった生地を裏から表に返した。ころんと小さくてかわいいかばんが現れた。さっそく中身を入れて、肩から斜め掛けしてみると、外ポケットに縫い付けてもらったコーヒー豆の麻袋がアクセントになっていて、テンションが上がる。
 店名の「0203」は、「無二無三」から付けている。他に代わるものはないという意味だが、話をしながら作り上げてもらう過程も含めて特別なオーダーメード体験になった。
 カバンツクリエーション0203TEL0796・34・6623

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