居酒屋、酒販店、道の駅…コロナ禍の飲食業界「あがきながら試行錯誤」

2022/01/25 05:30

病院内の食堂を始める天野猛さん(左)=公立豊岡病院

 2年間にわたって、感染の拡大と収束を繰り返してきた新型コロナウイルス。休業や時短、酒の提供自粛などを求められてきた飲食関連業者は苦境にある。しかし、コロナ禍の中で、新たな事業に乗り出したり、始めた事業をうまく育てたりする事業者が兵庫・但馬地域にもいる。弁当販売から病院の食堂運営に参入する居酒屋や、焼き芋を売り出したまちの酒販店。そこへ再び、オミクロン株が猛威をふるい始めた。それでも前を向き、奮闘する事業者を追った。(桑名良典) 関連ニュース JR西、明石の新幹線車両基地の整備を断念「コロナ禍前の利用水準に戻らず」 市に伝達 コロナ禍に子猫をお迎え 警戒心が強く抱っこが苦手→ゴロゴロとリラックスする姿に家族みんなが癒される お食事処、福助グループの本店復活 コロナ禍閉店から4年ぶり 十割そばを軸にランチに力点


 兵庫県が政府に「まん延防止等重点措置」の適用を求める方針を明らかにした今月20日。豊岡市千代田町の居酒屋「旬彩美酒あまの」店主の天野猛さん(53)は、公立豊岡病院(同市戸牧)で、院内の食堂をオープンさせるための準備に追われていた。
 昨秋、同病院の食堂を手掛ける業者が撤退し、院内で弁当を販売したのをきっかけに、後継事業者に手を挙げた。
 居酒屋で持ち帰り弁当を始めたのは2年前の3月。緊急事態宣言の発令で、酒類を提供する飲食店に休業要請が出され、苦境に追い込まれたからだ。
 「居酒屋を14年余りやってきたけど、持ち帰りの弁当を始めてから、夜中心の生活が随分変わった」と自嘲気味に振り返る。
 しかし、そのおかげで新店の開業にこぎ着けた。「見舞客に加え、医師や看護師など職員約千人が働く場所。ここでしっかり商売してみたい」と思いを語る。店名は「おひさまキッチン」。「ほっこりできるような場所にしたい」
 病院食堂の準備で、居酒屋は年始から休業しているが、2月中には再開したいという。「コロナに負けてはいられない。悪いことばかりじゃないと言えるようにしたい」
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 昨年の年の瀬。夕暮れにJR八鹿駅(養父市八鹿町八鹿)近くの酒販店店主、田中正司さん(50)が、店舗前で配達用の車の後部に据えた焼き芋機から、ほくほくの商品を取り出した。
 「こっちが千葉産の紅はるか。これが茨城産のシルクスイート。ねっとりと、しっとり、それぞれ特長が違うんや。どっちも、ほっこりするで」
 価格は1グラム2円。1本で350円程度という。店の横にも焼き芋機を置いて、お酒などを買いに来る客に販売している。
 「とにかくあがきながら、何かを始めて、試行錯誤するしかない」
 養父市は、もともと高齢化が進んでおり、人口減少も続く。そこにコロナ禍が追い打ちをかけ、閉店するスナックなどが増えて、酒類を提供する地域の酒販店も苦境に陥っている。
 田中さんは、焼き芋を見つめながら「近年は桜の季節などに、城崎温泉街で売らせてもらってるんやけど、好評でね」と笑顔を見せる。そして、店の近くには新文化会館「やぶ市民交流広場」もできた。「収束すればイベントも数多くできるようになるやろ」と続けた。
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 「えらい時の開業で大変でしたけど、何とか乗り切ってきた」。養父市養父市場の「道の駅やぶ」の木谷理志駅長(42)が、しみじみと振り返る。
 同道の駅にある油そばとレストラン、カフェ&ベーカリーの飲食施設「コイノバビレッジ」がオープンしたのは20年春。新型コロナの緊急事態宣言の発令とほぼ同時期で、外出自粛の動きもあり、厳しい状況の中での船出だった。
 開業から2年弱。油そばには男性、レストランには主婦層など、それぞれ固定客がついてきたという。
 ベーカリーコーナーには、ベーグルや牛すじカレーパンなど20種類以上のパン。また、巣ごもり消費を見込んでクリスマスや年末年始用にオードブルを企画するなど工夫を重ね、テークアウトを強化してきた。
 施設の魅力アップのため地元で取れるユニークな食材にもアンテナを張る。夏場には、期間限定で地元農家から仕入れたメロンのパフェなども人気を呼んだ。
 木谷駅長は「他との差別化を図るため、常に新しいものを出していきたい。今後、野菜や果物を提供してもらっている但馬農業高校の生徒らとも商品開発に取り組みたい」と意気込んでいる。

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