夏なのにしめ飾り?! 丹波篠山に集落独自の風習

2021/08/19 05:30

玄関先で、以前飾っていた古いゴンボを手にする中西健治さん。ゴンボは鳥のようにも見える=丹波篠山市小野新

 「もう8月というのに、正月の注連(しめ)飾り?」。兵庫県丹波篠山市福住を訪ねた帰り道。通りがかった同市小野新の集落で、軒先に太い注連縄を見つけた。隣家を見ると、その家にも、その隣の家にも。集落のほとんどの玄関に掲げられている。注連飾りは小正月の「とんど焼き」で燃やされることが多いが、どうやら外すのを忘れたわけではなく、この集落独特の風習のようだ。(堀井正純) 関連ニュース 台風7号兵庫を縦断、21人重軽傷 13市町34万人に避難情報 県、被害相次いだ香美町に災害救助法を適用 JR西、16日の始発から運転再開 福知山線や播但線など一部区間は昼~夕方に 「曽祖父の戦争知りたい」神戸の高校生 祖母の記憶継承、平和願う気持ち新たに


 不思議に思って住民に尋ねると、「ゴンボやで。珍しい?」とけげんそうな顔。聞けば、毎年8月31日と9月1日、熊野新宮神社(同市二之坪)で催される伝統行事「八朔(はっさく)祭」で宮入りする山車の飾りで、五穀豊穣(ほうじょう)のシンボルらしい。祭りの後、山車から外し、輪番で集落の1軒が持ち帰り、玄関に飾るという。
 ゴンボはワラを左よりにした縄で長さ約70センチ。太い部分は直径25センチほどか。向かって左側が細く、先に稲穂が垂れ、中央部や右端は太い。鳥のように見えなくもない。
 同神社の前代表宮総代・中西健治さん(73)によると、祭りの宵宮では、内部にさまざまな「造り物」を飾った山車7基が7集落から集まり、ちょうちんの明かりの中、華やかな光景を繰り広げる。山車にゴンボを飾るのは、7集落のうち、小野新と栃梨の2集落。毎年新調し、氏子が持ち帰るのは小野新だけという。
 「今は集落は15戸だから、ゴンボをもらえるのは15年に一度。新しいものが来るまで、年中ずっと飾り続ける。神聖でありがたいもの」と中西さん。正月には注連縄とともに、二段で飾り付けする。幼少期から見慣れ、当たり前に思っていたが、成人後ほかの集落にはない風習と知ったとか。
 ゴンボとは根菜のゴボウを意味する方言だが、中西さんいわく「なぜそう呼ぶのか、由来は不明」。注連縄には「ごぼう締め」と呼ばれる種類があり、それが転じたのかもしれない。
 「八朔祭」の呼び物は、集落ごとに半月かけて手作りする「造り物」。竹やワラ、陶器など身近な素材でツルやイノシシなど工夫を凝らした造形美を競う。造り物は手間暇がかかり、「高齢化で祭りの伝統を守るのも大変」と中西さん。ゴンボも、集落で作れるのは永井忠勝さん(77)ただ1人で「だれかに受け継いでもらわんと」と苦笑する。
 昨年に続き、コロナ禍で「八朔祭」は神事のみになった。「祭りがないのはさみしい」と永井さん。「もし、希望されるのであれば、今年はゴンボだけでも作りたい」と話している。
【注連縄(しめなわ)】神聖な場所を外界と区別するために張る縄で、和紙などで作った紙垂(しで)が付けられる。新年になると、家々に飾られるほか、神社では掛け替えて年中飾る。伊勢志摩地方では、正月の注連縄を、「笑門」と記した札とともに玄関先に一年中飾る風習がある。

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