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被差別体験を本にまとめた岡崎勢子さん=加古川市内
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被差別体験を本にまとめた岡崎勢子さん=加古川市内
岡崎さんが書き上げた「倖せはあなたの手で」
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岡崎さんが書き上げた「倖せはあなたの手で」

 被差別地域に生まれ育ったという岡崎勢子さん(82)=兵庫県加古川市=は、長く人権教育の指導に関わってきた。80歳を過ぎ、自身の老いを感じる中、次の世代に差別の愚かさを伝えたいと体験を著書「倖せはあなたの手で」にまとめた。「人の手で作られた不合理な差別は、人の意識を変えることでなくせる」と語る。(津田和納)

 1936年、労農運動や同和行政の推進に尽力した元県議の父、小南眞次氏の末娘として生まれた。物心が付いたころから、生まれた地域が他と「何か違う」という自覚があった。

 道は狭く、家や長屋の軒が折り重なる。人と人との距離が近く、生活空間を共にするようだった。県議の父を頼って相談に訪れる人の姿も多く見られた。

 10歳で日本舞踊の一門に入った。17歳からは師匠宅に住み込んで稽古にまい進。よく働き、姉弟子たちにかわいがられた。

 だがある日、師匠とその親族の会話を耳にしてしまう。「息子が再婚するなら誰でもいい。部落の子でさえなかったら」。その言葉に体がガタガタと震えた。

 何も言わないと差別に屈したことになる。「奥さま、それはどういう意味ですか」と抗議したものの涙があふれて止まらなかった。

 次の日から、優しかった姉弟子たちが目も合わせてくれなくなった。私の出自を知ったからだ。そんな生活に3カ月耐えた後、正月を迎え実家に帰省した。両親に全て話すと、母は「家に戻って来い」と泣いたが、父は「差別はどこまでも追いかけて来る。一つ一つ取り除かなければなくならない」と説いた。

 後日、父は師匠宅を訪れ、数時間にわたって被差別部落について説明した。「申し訳ない」とわびる師匠に、父と一緒に「これからもよろしくお願いします」と頭を下げた。

 「憎むだけではダメ。差別をする側も間違った行政、教育、社会意識によって踊らされている。この経験から、正しい知識を広め、差別に立ち向かう覚悟を決めた」

 稽古に励み、24歳で師範に。26歳で自身の一門を発足させた。同級生の男性と結婚し、一男一女に恵まれた。稽古と子育てに奮闘する傍ら、解放運動にも参加。加古川市の同和教育指導員を38年間務め、これまでに学校や企業で約500回の講演を行った。

 だが、自分の差別心に気付き恥じた時期もあった。ある日、長女から「もし、『私が選んだ人よ』と外国人の男性を連れて来たらどうする」と聞かれ、えっと言葉に詰まった。

 「一瞬戸惑った自分の心の奥底に隠れる何かを感じた。だからこそ、常に自分を省みて、心の弱さと向き合わなければならない」

 それからは、多様な差別問題に意識を持ち、国際交流にも取り組む。最近は、数年前に知り合った中国人女性らを家に招き、水ギョーザ作りを教わった。孫やその友人らも参加し、一緒に円卓を囲んだ。

 「孫たちには、人と接する中で自分の心の目で見たものを信じる勇気を持ってもらいたい。決して、人を表面だけで判断しない人間に育ってほしい」

 著書「倖せはあなたの手で」には、差別を受ける苦しみを訴え、差別をする不幸さを知ってほしいという思いを込めた。「被差別部落への差別は埋没しつつある。だが、現実はいまだにむごく厳しい。本は次の世代の子どもたちが互いに手を取り合い、共に学ぶ一助にしてほしい」

 著書はA5判、96ページ。無料で配布するほか、加古川市人権文化センターで貸し出している。

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