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昨年出席した金婚式典の写真を見る高橋健二さん。認知症の妻としゑさんを支える=加古川市内
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昨年出席した金婚式典の写真を見る高橋健二さん。認知症の妻としゑさんを支える=加古川市内

 トイレから出ると、そばのいすに座っているはずの妻がいなくなっていた。認知症の妻は、携帯電話も持っていない。周辺にも姿が見えず、途方に暮れた。「どこへ行ったんやろ…」

 2年前の秋。兵庫県加古川市内で2人暮らしの高橋健二さん(73)と、妻のとしゑさん(75)は昼食の後、日課の散歩に出掛けた。途中で健二さんは店舗に入り、「座って待っとれよ」と言ってトイレに入った。それまでにも同じような場面は何度もあった。

 ところがいつもとは違い、としゑさんがいなくなっていた。離れてから10分もたっていない。最初は「そのへんにいるだろう」と考えていたが、しばらく捜しても見つけられない。たまたま近くにいた警察官に事情を伝えた。健二さんは「あの日はちょっと機嫌が悪かった。そんな時が危ない」と振り返る。

 加古川署に初めて行方不明者届を出すと、署員から帰ってくる可能性があるため、自宅で待つように言われた。だが焦りは募る。「家でじっとしていられない」。家族に来てもらい、健二さんは自転車で走り回った。よく立ち寄るスーパーの休憩所などを捜したが、見当たらない。

 数時間後、同署から近くの交差点にある防犯カメラの映像に姿が映っているとの連絡があった。東へ向かっているのは分かったが、その後の情報はなかった。じりじりとした思いでいるうち、日は暮れ、外は真っ暗に。「待つ以外、何もできることはなかった」

 発見の知らせが入ったのは午後7時を過ぎた頃。としゑさんは、車しか通れない加古川バイパス上で見つかった。通過する車のすぐそばを歩いているのを、ドライバーが見つけた。いつ事故が起きてもおかしくなかったが、幸いけがはなかった。「いやもう、ほっとした」。健二さんは今でも安堵の表情を浮かべる。

 同署に迎えに行くと、としゑさんはいすに座って待っていた。「寒くないか」と問うと、「寒くない」と答えた。自動販売機で温かい飲み物を買ってあげたことを覚えている。「何時間も何も飲まず、食べずに歩き続けていたのだろう。どれだけ不安で、苦しくて、しんどかったか」

 その時、健二さんは二度と目を離さないと誓った。週2回のデイサービスの時以外は、どこへ行くのも、何をするのも一緒。「家内にとっては迷惑かもしれないけど」と笑う。

 2人は昨年、金婚式を迎えた。健二さんは若い頃から仕事や趣味のスポーツに夢中で、家事や子育てはとしゑさんに任せきり。介護するようになってからは、健二さんが家事を担う。「家内はしんどいめして、ずっと世話してくれた。これからはわしが世話したる番。50年間の恩返しや」。(切貫滋巨)

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