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民生委員の女性に付き添われながら、手押し車を押して避難訓練に参加した藤田みよ子さん(左)=加古川市
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民生委員の女性に付き添われながら、手押し車を押して避難訓練に参加した藤田みよ子さん(左)=加古川市

 ベッドの手すりをつかんで腰を上げ、歩行器を使って玄関へ。外出用の手押し車を押しながら門を出て、凹凸のある路地を一歩ずつ進む。「ゆっくりでいいですよ」。付き添う民生委員の女性が後ろからそっと手を添えた。

 藤田みよ子さん(82)は兵庫県加古川市で1人暮らし。介護保険は要支援2。「台風でも今まで避難することはなかった。『ここで死んでもいい』って言ったら町内会長に怒られたんよ。でも付き添ってくれると気丈夫やね」

 昨年11月、地域の避難訓練に参加し、自宅から約180メートル離れた公会堂まで10分かけて歩いた。ケアマネジャーら福祉の専門職が、災害弱者が避難するための個別支援計画をつくる県事業の一環だ。安田地区は2019年度、市のモデル地区として取り組んでいる。

 災害時に自力で避難が難しい高齢者や障害者をどう守るかは繰り返し議論されてきた。対策は進まず、昨年10月の台風19号でも犠牲者の大半が高齢者だった。市でも災害弱者の名簿と個別の避難計画を作って町内会と共有するが、計画内容を記載するのは本人。実際の支援は結局地域任せとなり、課題があった。

 個別支援計画には、名前、住所、要介護度などの基礎情報だけでなく、居室の見取り図から避難経路、病歴、「歩行困難」など避難時に必要な配慮まで記されている。

 藤田さんは訓練前日、ケアマネと地元住民らが集まって避難の流れを確認する「ケース会議」に出席。計画では居間の窓から外に出る想定だったが、当日になってプロパンガスのボンベがある壁際は手押し車が通りづらいことが分かり、急きょ経路を変更した。

 担当ケアマネの地域包括支援センター「かこがわ南」の倉田昌代さん(53)は「頭の中で考えていたことが実際に行動に移してみてよりよい形に修正できた」と振り返る。安田地区では藤田さんを含む3人分の計画を作成した。

 ただ1人暮らしの75歳以上や身体障害者ら、市が災害時に支援が必要とする住民は1万人以上に上る。同地区のような丁寧な計画づくりが全員にできるとは限らない。担当するケアマネへの報酬など費用の確保も課題だ。さらに対象となる高齢者や障害者の体調に変化があれば、その都度計画の修正が必要になる。

 市危機管理課の高田真吾副課長は「一朝一夕に完璧を求めるのは難しい」とした上で、「ケアマネが入ることで町内会の負担を減らせ、より深い情報を共有することができた。計画づくりが地域内のつながりを生むツールとして機能してほしい」と期待する。

 地域の防災に福祉のノウハウを役立てる取り組みは始まったばかりだ。(若林幹夫)

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