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ちなみに道路標識のローマ字は「Oshiko」=高砂市阿弥陀町生石
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ちなみに道路標識のローマ字は「Oshiko」=高砂市阿弥陀町生石
地名や公共施設の生石は「おおしこ」=高砂市阿弥陀町生石
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地名や公共施設の生石は「おおしこ」=高砂市阿弥陀町生石
生石神社の振り仮名は「おうしこ」=高砂市阿弥陀町生石
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生石神社の振り仮名は「おうしこ」=高砂市阿弥陀町生石
生石神社の鳥居には「生石子」と書かれた額が掛かる=高砂市阿弥陀町生石
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生石神社の鳥居には「生石子」と書かれた額が掛かる=高砂市阿弥陀町生石

 突然ですが、クイズです。兵庫県高砂市で「生石」と書けば、その読み方は? 高砂市内在住者や神戸新聞東播版読者にとっては簡単かも。「なまいし」でも「しょうせき」でもなく、正解は「おーしこ」。どうして2文字目を長音符号にしたか? その理由は振り仮名が2通りあるから。地名の高砂市阿弥陀町生石や「ふれあいの郷 生石研修センター」など公共施設は「おおしこ」、ところが生石神社は「おうしこ」。知っている人も多いはずだが、その理由に迫るべく、取材を進めた。

 ■神社は「おうしこ」

 高砂市阿弥陀町やその周辺は、古くから竜山石の産地として知られる。竜山石をくりぬいた巨石の造形物「石の宝殿」は同神社のご神体。地名に石が含まれるのもうなずけるが、読み方は難しく、初めて訪れた人たちはまず読めない。読み方の発音を聞いても、すぐに「おおしこ」とイメージする人も少ないだろう。まずは「おうしこ」と表記する神社を訪ねた。

 東久祠(ひがしひさし)宮司(82)は開口一番、「『生』の読み方を辞書で調べたら、『お・う』はあるが、『おお』とは絶対に読まない」。さらに、「『宝殿』も『ほーでん』と発音しても『ほおでん』ではなく『ほうでん』でしょう」と明快に説明してくれた。

 確かに文化庁ホームページによると、現代仮名遣いのルールとして「オ列の長音」は「『う』を添える」とある。オ列とは50音図の5段目のこと。明快な説明は説得力十分に聞こえる。

 東宮司は、読み方の由来についても持説を教えてくれた。地名はかつて「生石子」とも書かれ、もともと「お・いし・こ」と読まれていた。次第に「おーしこ」と発音されるようになり、いつしか3文字目の「子」が表記されなくなったという。確かに神社の鳥居には「生石子」との額が掛かっている。

 ■地名は「おおしこ」

 ではなぜ、現在の地名表記は「おおしこ」なのか。住宅地図や道路地図の振り仮名は「おおしこ」と付けられている。国内全ての地図の基礎となるのは国土地理院作成の地形図。国土地理院地名情報課によると、地形図に表記される地名のうち、難読地名を中心に振り仮名が付けられるという。

 地形図で、高砂市阿弥陀町生石に「おおしこ」の表記が登場するようになったのは、1969(昭和44)年発行の2万5千分の1修正版から。それ以前には表記にばらつきがあり、しかも片仮名で「オウシコ」「オーシコ」だったという。

 表記の根拠となるのは、各市町村から提出される地名調書。69年修正の2年前となる67(同42)年の地名調書に「おおしこ」の表記があったとの記録が残る。つまり当時、高砂市側からの申請で表記が統一されたことになる。わざわざ現代仮名遣いとは異なる振り仮名で申請したのは、何か理由があったのだろう。しかし、同市総務課に問い合わせるも、当然ながら半世紀以上前を知っている職員は残っておらず、経緯は判然としない。

 ■最初の文献は「ヲヽ」

 歴史的、文化財的な観点から考察できないか、高砂市教育委員会生涯学習課文化財係長の清水一文さん(50)を頼った。入庁以来27年間、高砂市の文化財行政に携わってきた清水さんも、はっきりとした根拠は不明というが、一般論として「固有名詞なら、文字として残されている記録の変遷を見ます。歴史的に最初にどう表記されていたかがポイント」と教えてくれた。

 その上で、文献をひもとくと、生石にまつわる表記が最初に登場するのは、奈良時代初期に編さんされた「播磨国風土記」。生石神社のご神体「石の宝殿」の存在について「大石」と表記されている。振り仮名はないが、1文字目の「大」の読み方は「おお」。これが根拠になった可能性も考えられる。

 さらに、「生石」の文字が確認される一番古い書物は、平安時代末期の「播磨国内神名帳(じんみょうちょう)」。神社に祭られている大己貴(おおなむち)神の別名である「生石太神」が記され、「ヲヽシコ」の振り仮名が付く。「ヽ」は片仮名の繰り返し記号なので、「生」は「ヲヲ」となる。

 現代仮名遣いでオ列の長音は「う」を添えるルールと説明したが、歴史的仮名遣いでオ列の仮名に「ほ」または「を」が続く長音は、「お」を添えると決められている。

 つまり、確認されている文献で歴史上最初に出てきた表記を現代語に返還すると、「おお」となる。ようやく、振り仮名を「おおしこ」とする説得力がある根拠にたどり着いた。

 ■ばらつきは今も昔も

 ところが、江戸時代の古絵図には『ヲフシコ』との表記が見られるという。そして同時代後期に発行された、今でいう旅行ガイド「播州名所巡覧図絵」の中でもばらつく。万葉集の歌人「生石村主」の振り仮名は「をゝしすくり」と「おお」説につながるが、高砂市神爪にある生石神社「一の鳥居」を示す「生石明神ノ鳥居」は「おふしめいじん」と、こちらは「おう」説だ。

 さらに、統一されていると思っていた現代の公的資料にも揺らぎがある。2005年に発行された高砂市史第五巻の史料編には、1889(明治22)年に阿弥陀村の大字となった「生石村」は「おうしこむら」。05年当時、市史編さん課に所属していた職員によると、角川書店の「角川日本地名大辞典」を参照したといい、確かに辞典には生石を「おうしこ」と書いている。

 「おおしこ」説の歴史的な根拠は見えてきたが、「おうしこ」説を採用する文献も散見される。一体どちらが正しいのか。実はこの質問はたびたび寄せられるというが、清水さんは「時代や文献によってそれぞれの解釈があり、どれが間違いとかではないです」。

 推定約500トンの「石の宝殿」は1300年前に造られたとみられるが、誰が何のために造ったかなど謎は多く、「日本三奇」の一つにも数えられる。「生石」の由来や読み方も、同じように謎めいている方が、ゆかりの深い地名らしさがあっていいのかもしれない。(若林幹夫)

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 地元ならではの慣習、かつての珍騒動のその後、変わった地名…。言われてみると気になって仕方ない。そんな「なぜ?」「何?」を、記者が深掘りします。調べてほしいことを募集中。郵送かファクス、メールで連絡先を記し、〒675-0031 加古川市加古川町北在家2311、神戸新聞東播支社編集部「ナゼナニはりま」係(ファクス079・421・1023)まで。toban@kobe-np.co.jp

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