「温かく見送られる、穏やかな死」を絵本に 多くの看取りを経験した特養の女性
2021/07/02 05:30
看取りをテーマにした絵本を手掛けた三木昌代さん=地域密着型特別養護老人ホーム「千鶴園」
兵庫県加古川市内の特別養護老人ホームに勤める女性が、多くの入所者を看取(みと)ってきた経験を基に、平穏な死をテーマにした絵本「ありがとう…わたしはあの世へ、光の国へ」を作った。核家族化などで日常から遠くなった死。超高齢化による「多死社会」を迎える中、天寿を全うすることを肯定的に捉え、終末期を支える介護に誇りを感じてほしい-。そんな思いを込めた。(若林幹夫)
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同市野口町水足の特別養護老人ホーム「万亀園」「千鶴園」を運営する社会福祉法人「万亀会」の副施設長、三木昌代さん(57)。同法人では近年、最期まで普段と同じ環境で生活できるよう、入所者本人や家族の意向を尊重しながら、施設内での看取りに力を入れている。
看護師でもある三木さんは、医療に頼って病院で亡くなる高齢者が多い現状について、「生活の場から死と老いが追いやられた」と指摘。「死は怖い、つらい、悲しいと忌み嫌うものではない。当たり前で自然なこと。温かく見送られ、穏やかに迎えてほしい」と願う。また、希望する最期を迎えるには介護の力が不可欠といい、絵本で思いを表現することを思い立った。
絵本は、老人ホームに入った女性が亡くなるまでの物語。最初は「ある日ぽっくり死にたかった」と思うが、食事や入浴を介助してくれる介護職員、見舞いに訪れる夫たち家族のおかげで、次第に気持ちが穏やかになる。最期は苦しみを感じることなく、みんなに見守られながら息を引き取る。
施設での経験を基に、文章は2018年3月に「1日で書き上げた」。読んでくれた若いスタッフは涙を流してくれたといい、絵本として仕上げたい思いが強まった。20年4月、絵本コンクールに原稿を応募。入賞は逃したが、コンクール主催団体事務局の文芸社から書籍化を持ち掛けられた。絵はプロのイラストレーターが担当し、今年4月に絵本として完成した。
三木さんは民間資格の「看取り士」も持つ。本人と家族の不安を取り除き、悔いを残さない最期を迎えてもらうのが役割。「介護に関わる人はみんな看取り士。絵本を通じ、いい仕事をしているんだという誇りを持ってもらいたい」と話す。
全カラー32ページ。税抜き1200円。全国の書店で販売している。