コロナ禍の現場から~衆院選を前に~(2)<雇用>非正規脱却の壁、より高く
2021/10/14 05:30
ハローワーク加古川の前で列をつくる車(手前左)=加古川市野口町良野(画像の一部を加工しています)
衆院選の19日公示、31日投開票が決まった。新型コロナウイルスは地域住民を疲弊させ、事業者を苦境に陥らせている。この国の行方を決める選挙を前に、兵庫県の東播地域からコロナ禍の実情を伝える。
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10月上旬の午後2時。ハローワーク加古川(兵庫県加古川市野口町良野)の前には、車列が続いていた。3台、4台と増えていく。約30台分の駐車場は既に満車。警備員は「去年の春は車が100メートルほど並んでいた。今でも時間帯によっては同じような状況になる」。
厚生労働省の調査によると、新型コロナウイルス感染拡大に関連した解雇や雇い止めで仕事を失った人は、10月1日時点で見込みを含めて全国で累計約11万8千人。うちアルバイトや派遣社員など非正規労働者が、少なくとも約5万4千人に上る。
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「ここまで仕事が見つからなかったのは初めて。付き合っている彼女がいるけど、結婚も考えにくくなった」。姫路市の男性(27)は振り返る。
20歳からほとんどの期間を派遣社員として過ごし、2018年からは同市の自動車部品製造工場で勤務。時間ごとに3班に分かれ、同僚約10人と働いた。徐々にやりがいを感じていた時、コロナ禍が襲った。
「作業班も減り、残業もなくなった」。契約更新が近づいていた昨年4月、派遣会社の担当者から「(勤め先の)会社が契約を更新しない、と言っている」と伝えられた。同5月に職を失い、直後からハローワークに通った。だが、求人表には自分が応募できる仕事は出てこなかった。
兵庫労働局によると、県内の8月の有効求人倍率(季節調整値)は0・94倍で、14カ月連続で1倍を割り込む。東播2市2町を管轄するハローワーク加古川は昨年4月~今年9月、コロナ禍での退職や転職による求職登録を605人から受けたという。
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国は雇用維持を促すため、企業が従業員に支払った休業手当を支給する「雇用調整助成金」の受給要件を緩和したり、助成率を引き上げたりした。今年7月、その累計支給額は4兆円を突破。だが、コロナ関連の解雇や雇い止めは増え続けている。
男性は「(前の仕事は)久々に長く続いていたし、頑張って正社員になりたいとも思った。でも、派遣社員って働きぶりにかかわらず、やっぱり雑に扱われる」。その後、加古川市内の公共職業能力開発施設で訓練を受け、今年4月、ようやく電気工事会社に正社員として採用された。
コロナ禍は、「雇用の調整弁」にされてきた非正規労働者の立場の弱さを、改めて浮き彫りにした。男性は思い知ったという。「学校を卒業して、すぐに就職するというレールから外れたとき、正社員になるハードルがどれほど高いか」
この国で、自分の適性に合った仕事や働き方を誰もが選べない現実。積み残してきた課題が突き付けられている。(千葉翔大)
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