加古川市公設卸売市場、31日閉場 廃業決めた精肉店「投資してまで続けられない」
2022/03/20 05:30
今年4月1日付で廃止される加古川市公設地方卸売市場=同市野口町長砂
加古川市公設地方卸売市場(兵庫県加古川市野口町長砂)が31日で閉場し、1973年の開設から約49年の歴史に幕を下ろす。市が最長2年間の明け渡し猶予期間を設けたため、8業者・団体は当面現在の場所で営業を続けるが、このうち「いろは精肉店」店主、池田義雄さん(59)は来年3月末での廃業を決めた。創業から60年。「後継者もおらず、売り上げが落ちる中、移転費用など新たな投資をしてまで続けられない」と決断した。(斉藤正志)
関連ニュース
超ローカルフード「ホルモンうどん」ブレークの訳は?
「社長の後継ぎが見つからない…」後継者がおらず倒産した企業が過去最多 2021年調査、製造業で割合高く
注文殺到、27年待ち「幻のコロッケ」 最高級神戸ビーフ使用、1個540円でも赤字
同店は62年、池田さんの父義一さんが同市加古川町北在家で創業。母や叔父らを含む従業員数人の個人商店だった。市が生鮮食品の流通基地として同市場を設けることに合わせ、同店も移転した。
市場には、幼い頃からよく両親と訪れた。「青果の競りをする声が大きくてね。場内は行き交う人でいっぱいだった」と振り返る。
大学4年生だった84年、父が病で倒れ、1週間後に亡くなった。母は「1人でもやる」と言ったが、無理があるのは明らかだった。池田さんは決まっていた化粧品代理店の内定を辞退。21歳で後を継ぎ、大学に通いながら働き始めた。
同業者が「困ったことがあったら聞きにおいで」と声を掛けてくれ、連日のように話を聞きに行き、肉の部位の特徴などを学んだ。
当時は朝6時すぎから牛肉、豚肉を求める商店主らが、ひっきりなしに訪れ、飲食店や企業の食堂などに配達もした。忙しい時は、場内にあった食堂に出前を頼み、昼食をかき込むように食べて働いた。
90年代に入り、大型スーパーの台頭で肉や野菜の流通が変化したことを受け、同市場の取扱高は徐々に減少。活性化策を話し合う会合で、池田さんは一般客への開放を提案したこともあったが、実現しなかった。
施設の老朽化のため、2019年3月、市は建て替えか改修を進めるための整備計画を策定。しかし同年9月、唯一の青果卸売業者「丸果加古川青果」が業績不振で事業を停止した。青果卸売業者が不在となり、後継も決まらなかった。
このため青果市場の認定を受けられなくなり、20年5月、市から22年4月1日付での市場廃止を通告された。
市は「存続が危機的な状況は伝えていた」と主張する一方、業者側は「十分な話し合いもなく、突然、決定された」と反発。業者側は市に存続を求める嘆願書を提出したが、方針は変わらず、20年8月に廃止受け入れを市に伝達した。
池田さんは21年1月、家族会議を開き、廃業することを母と妹に伝えた。2人とも反対しなかった。
「できることなら、もっと仕事がしたかったが、先が見通せなかった。話し合いもなく、廃止を決めた市への憤りは今もある」と池田さん。「残り1年で、今までお世話になった人に感謝をしながら、仕事をしていきたい」と話した。
◇ ◇
■8業者・団体は営業継続 廃止後も2年間貸与
加古川市公設地方卸売市場が31日に閉場し、4月1日付で廃止後も、8業者・団体が同市から土地、建物を借りて営業を続ける。駐車場などの共用部分は、8業者・団体でつくる管理組合が借りる形となる。市は移転準備のための期間として、2024年3月末まで最長2年間、貸与する。
20年5月に市が業者側に市場廃止を通知した当時は、18業者・団体が入っていたが、既に9業者が移転。うち2業者が明石市公設地方卸売市場に、残りの7業者は加古川市内の別の場所に移った。このほか1業者は店主が亡くなり廃業。関係者によると、移転に伴い、退社した従業員もいるという。
残る8業者・団体は当面、現在の場所に残るが、うち6業者・団体は移転先が決まっていないという。ばらばらになれば、1カ所で多彩な食材が購入できる利点がなくなり、客離れも懸念される。
現在の場所で営業を続ける水産物卸売業「加古川水産」は4月以降も、毎週土曜午前6~8時に実施している一般開放を続ける予定。会長の柳本喜博さん(80)は「市場が廃止になっても、当面は現在の場所で、今まで通り精いっぱい営業していきたい」と話している。(斉藤正志)