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 著者は、タレントさんである。あのバラエティ番組や、あの海外情報番組、さらにはあの、年末恒例の歌合戦まで、そつなく司会をこなしている、ベテランのタレントさんだ。

 コントを得意とするコンビ芸人のひとりでもある。行き交う地下鉄線を擬人化してみたり、社交辞令の言い逃れを笑いで糾弾してみたり。若かりし頃、「お笑い第三世代」の一員として、群がる女性客たちをきゃあきゃあ言わせていた。

 その、彼がである。いつの間にこんな人物観察と、人生の機微を胸のうちに蓄えていたのだろう。

 主人公は、登場人物全員である。誰かの友人だったり、誰かの家族だったりする人物の、心のうちと出来事が、妙な誇張や煽りは一切無しに、極めて淡々と並べられていく。その中では、あの出来事もこの出来事も、あの登場人物もこの登場人物も、すべて、等価だ。

 そう、登場人物の人生たちは、等しく、価値を置かれている。そのことは、目次をひと目見れば明らかである。それぞれの章は、ほぼ、そこで語られる登場人物の名前のみ。本書がいかに、人物の存在のみにおいて、誠実に作られたものであるかが伺える。

 登場人物の多くが50代。描かれる風景は、実に豊かだ。そこそこ売れてしまったベテラン俳優が抱く不安。夫を早くに亡くした、有能なCA。彼女に恋をする男の、告白に至るまでの紆余曲折。青春時代に野球部でスター選手だった男の転落。幸福と苦悶、恋愛と別れ、そして生と死が、まるでドキュメンタリー映画みたいに、入れ代わり立ち代わり描かれていく。

 抑揚とか演出とかは、極力そぎ落とされている。とある登場人物の、ほんのはずみみたいな一瞬のキスと、とある登場人物の、決定的な暗闇への転落とが、同じ重さで語られている。

 そして人生というものは、思わぬ形で急展開を見せる。その時の状況とか年齢なんておかまいなしだ。前触れもへったくれもありはしない。私たちはただ、突然降り掛かってくる急展開をまるごと受け止め、生きてゆくのみである。

 華やかな芸能界の真ん中で、着々とキャリアを重ねてきた著者。その人が描く、普通の人生の尊さが、じんわりと沁みる一冊である。

(小学館 1600円+税)=小川志津子

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