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 美術予備校に通ったことがある。当時は美大に行きたいと思っていたのだ。しかし蓋を開けてみると自分より遥かに上手い人達の中で萎縮しまくり、場に飲まれまくり、浮かんでは消える雑念に振り回されながらイーゼルに向かう日々。結果、「絵(これ)じゃない」ということにして早々に切り上げた。17歳のことだった。そんな「あの頃」を思い出させてくれた青春美術漫画が今、話題を呼んでいる。

 主人公の矢口八虎は、試験結果もスクールカーストも上位に食い込むリア充高校生。全方位をそつなくこなしながら、しかし心の奥に虚無と焦燥を抱いていた。そんなある日、八虎は美術室にある一枚の大きな絵に心を奪われる。

 八虎に与えたその衝撃は、美大、とりわけ日本で一番倍率の高い大学と言われている東京藝大合格を目指すという、彼のスポ根受験物語を開幕させたのだった。

 努力家で、恐ろしいほどの伸びしろを見せ成長を続ける八虎。最新刊である4巻は、本命である東京藝大の一次試験がメインで描かれている。試験直前で、ある大きな欠点が浮き彫りになる八虎。「合格者が必ず持っていて、現役生が一発逆転できる力。生き方そのものが変わる力」。その大きな壁に向き合う苦しみが、大きなテーマとして描かれている。

 また本作は、八虎が周りの人物と対話するシーンが印象的だ。「お絵描きは趣味じゃダメなの?」と訊く母親、「俺の“好き☆()だけが俺を守ってくれるんじゃないのかなぁ……!」と涙する女装の同級生、そして4巻では、かつて美術と出合う前は朝まで酒を飲み(未成年者の飲酒は法律で禁止されています)、バカ騒ぎを繰り返していた同級生と、八虎がいまぶつかっている「壁」について、ラーメン屋で語り合う。

 その正直さ、泥臭さ、熱さに胸を打たれるのだ。好きなものを見つけるって、幸せでもあり苦しいことでもあるんだね。八虎の試行錯誤を通してもう一度人生を、高校二年生から生き直しているような気がしてくる本書。でもそれは私の人生ではない。私は私の絵を描こう。今描ける中で一番格好いい、一番攻めてる、一番大きな絵を。そう、八虎の苦悩は私達の勇気だ。

(講談社 各630円+税)=アリー・マントワネット

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