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 人と人が隣り合えば、そこには何らかの関係が生まれる。その関係を、いつだってバランスよく、塩梅よく、うまい具合に運べる大人なんて、いったいどれほどいるだろう。誰かを好きになるたびに、人は、自分の何かをこじらせる。そのこじれ具合が見事な女たちが描かれる短編集だ。

 ビアホールで民族衣装に「テレーズ」という名札をつけて働く女は、店で知り合った男と交際し、1年経って「結婚」の2文字もちらつき出した頃、男に妻子がいることを知る。『歓びのテレーズ』は、そんな男の全裸写真撮影を試みる女の格闘ぶりをテンポよく描く。

 『薄紅色の母』では小学生の主人公の前に、死んだと聞かされていた実の父親が現れる。晴れた日の夜、晩ごはんだけを食べにやってくる父親との短い日々。その日だけうきうきと着物を洗う母のこじらせっぷりを、大人になった主人公が振り返る。

 『匂盗人』のジェットコースターぶりが白眉である。親友とシェアハウスで暮らし始めた主人公。着る服をゆずると、親友が家事を買って出て、理想の分担生活が始まったかに見える。しかし親友が主人公の「匂い」を好み始めたのをきっかけに、完璧に見えたふたりの均衡が崩れてゆく。

 雪国の小学校に転校してきた主人公と、クラスでつまはじきにされている薄汚い少女「トミー」との短い交流を描く『六本指のトミー』は実に切ない。固く握られたトミーの手には、指が6本あるのだった。仲良くなりたいけど、仲良くなりたくない。揺れる思いの中で主人公は、トミーの6本めの指に強く惹きつけられる。

 冒頭から度肝を抜かれるのは『片脚』だ。「家に帰ると、ベッドの上に夫の片脚があった。」の一文から始まる。語り手は「死んだはずの夫の片脚がここにあることの不思議」をスルーして、「この片脚をどうすればよいのか」に終始する。七転八倒の末に、彼女は、ある思いに達するのだ。

 異星人に拉致され、イグアナ似の彼らに観察される日々を暮らす主人公。『あなたの惑星』はがっぷり四つに「地球人の性愛」を描き出す。懐古もホラーもSFも、純愛も偏愛もただの性交渉も、本書ではまるで等価値だ。そう、そもそも、世界ってそういうふうにできてるじゃないか。

 そして、最後に置かれた表題作。夢の中でだけ会える男との交わりに、焦がれるあまり、夢に飲まれてゆく女の物語。その見事な幕切れに、ひとつ息を吐いてから、本を閉じた。

(新潮社 1500円+税)=小川志津子

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