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 香港の雑居ビルに出入りするタンザニア人のコミュニティーに入り込んだ女性文化人類学者は、彼らのいい加減だがタフな互助ネットワークに新しい経済システムの可能性を見出した。既成の価値観を揺さぶる刺激的なルポルタージュだ。

 一攫千金を夢見て香港に来た彼らの半生は波乱万丈だ。何より雑居ビルのボスを自称するカラマのキャラが際立っている。怠け者で、約束を守らず、下ネタを連発するダメ人間。にもかかわらず仲間から慕われ、人脈は大物官僚から元囚人までうかがい知れない。

 彼らは主に本国から香港に中古車を買い付けに来た業者の便宜を図って稼ぐ。難民、亡命者、交易人、不法労働者という不安定な身分にある彼らは他人の事情に踏み込まず、信用もしない。でいながらSNSを駆使して、見ず知らずの他人に対しても見返りを求めず面倒を見る。

 それらは、できる範囲で、ついでに、裏切られることも承知の上なされる。誰にも負い目や威信を与えない気楽な助け合いを著者は「開かれた互酬性」と呼び、信用評価によって取引相手を選別する経済とは一線を画す。それはいわば仲間とつながり人生を楽しむためのシェア経済だ。

 いつも彼らからたかられる著者が、ある日「ぷつんと切れて」全財産をみんなに分け与え、義務や責任から解放されて他者に依存して生きる快感に目覚める場面は痛快極まりない。無駄とか適当、なりゆき任せが、この不確実な社会を生き抜く確かな知恵のように思えてくる。

(春秋社 2000円+税)=片岡義博

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