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 昭和30年代生まれ、同じ小学校で育った5人の男女の、それぞれの道のりと再会を描く物語。まず語られるのは、「ヤヨイ」という名の女性のこれまでの日々だ。物心ついた頃から、自意識が芽生え、親に反抗し、受験の試練をくぐり抜け、イロコイについて思い悩み、就職してお局さんになって……と、その成長がきわめてシームレスに語られていく。中年以降の人間の、実感はまさにこんな感じだと思う。ついこの間まで、大人に守られて、自分のことだけ考えていればよかったのに、自分はいつの間に「大人」になってしまったんだろう。「大人」どころか、むしろ人生の終わらせ方を考える季節に入った今の自分。あの懐かしい日々との地続き具合と、かけ離れ具合が、ダブルパンチで中年の心を襲う。いつ、どのタイミングで、自分は今の自分になったのだろう--。

 ヤヨイは独身のままに人生を折り返す。かといって、仕事で大きなやりがいとか大成功に恵まれているわけではない。その揺れる心が実に微細に語られる。これはいいぞ。この筆致で、同い年の男女の人生が、あと4人分も読めるんだ。さあ、次は「ヤヨイ」の隣の家に住まう「タカユキ」くんの人生だ。……ん?

 「タカユキ」くんの人生は、「ヤヨイ」に費やされたページ数の、3分の1も行かないうちに、マッハの速度で語り終えられてしまった。

 ちょっとあわてて目次に戻る。「ヤヨイ」に費やされているのは約100ページ。「タカユキ」くんがなんと約30ページ。「ヤヨイ」と心を交わしながら、美しいお嬢様としての境遇に恵まれて育った「ユリコ」ちゃんの章が約80ページ。やんちゃな悪ガキだった「カツオ」くんと、体格も心も大きな「マスコ」ちゃんが約40ページだ。

 ……待て待て。なんで私はこんなことに目くじらを立てているのか。我に返ってちょっと虚しくなる。でも、やっぱり大事なことのようにも思うのだ。誰の人生にも、重いとか軽いはない。どの人生も尊い。ましてや、人間描写力や観察力に長けまくりの著者である。こんな差別があるはずがない、こんな--大いに揺れながら読み進む。

 しかし、この本の真価は、最後につづられる「再会」の章にあったのだ。

 いろいろあって、それぞれの実家にひとり住まいの「ヤヨイ」と「タカユキ」。偶然の再会からのあれこれが、まるで映画のように主観がポンポンと切り替わりながら描かれる。そのことを「ヤヨイ」からの手紙で知った「ユリコ」の主観も。そうなのだ。この世に生きるすべての人間が、世界を、自分の目でしか見ていない。ほんのちょっと横から見ると明らかなことが、真正面からはまるでわからなかったりする。

 自分の人生はシームレスに地続きだけれど、再会した幼馴染たちは、子どもからはっきりと大人に変貌している。それぞれの身に起きたことは、あまりにも異なる。かつて同じ場所にいたはずなのに、ずいぶんと遠くまで来てしまった。でも今、こうして再び笑い合っている。それぞれの境遇を、喜びや悲しみを分け合っている。そう、これからまた、明日が始まる。

(幻冬舎 1700円+税)=小川志津子

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