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 電気も水道もない山奥で暮らす老夫婦の姿を30年近く追ってきた山口放送のドキュメンタリー番組「ふたりの桃源郷」シリーズ。放送のたびに大きな反響を呼び、2016年製作の映画版は今も各地で上映され続けている。本書は担当ディレクターが番組の舞台裏を交えて記した書籍版だ。

 大正生まれの老夫婦は若い頃、人里離れた中国山地の奥地を開墾し、自給自足、極貧の山暮らしを十数年続けた。3人の娘たちのため一度は山を離れて安定した生活を築くが、突然、18年ぶりに山暮らしを再開する。1979年、夫は65歳、妻は59歳だった。

 テレビの取材は91年に始まった。仲睦まじい2人の素朴で誠実な人柄、四季の巡りに沿った質素だが満ち足りた生活、それを支える娘家族の姿が視聴者の心を捉え、シリーズの放送回数は100回を超えた。

 放送では使えないシーンも盛り込まれる。夫婦円満の秘訣を聞くたびに、じいちゃんは「うーん」とうなった後にいつも同じ言葉を繰り返した。「……そりゃぁ……セックスじゃのぅ……」。ばあちゃんは横ではにかんでいる。

 老人ホームへの入居、ホームからの山通い、じいちゃんの死……と番組は夫婦の変化を追う。家族とは、老いとは、幸せとは。取材スタッフや視聴者は自分たちの家族と重ね合わせて思いを巡らせる。

 なぜ老夫婦は余生を送る場所として山を選んだのか。なぜ2人の生きざまが私たちの心を激しく揺さぶるのか。現代人に問う幸福論であり、ドキュメンタリー論でもある。

(文藝春秋 1500円+税)=片岡義博

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