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 表紙には「天平の美少年」こと阿修羅像。だが何かが違う。すらりと伸びて「く」の字に曲がる腕の先端、胸の前で合わせる手の片方がない。これは明治時代の撮影で、像は後に修復された。破損の歴史を伝える貴重な1枚だ。本書にはこれら国宝の寺院、仏像、絵画などを捉えた近現代の写真約30点が収められている。戦災で焼失したり、歳月を経て劣化したりと、撮影時の姿は失われていても、写真自体が重要文化財というものもあって見飽きない。

 私が特に引きつけられたのは法隆寺夢殿、興福寺の集合仏像、それと神護寺薬師如来立像(モノクロとカラーを比べて、ぞくっとしました)。当時の撮影技術を駆使した写真家たちは、人手を掛けて大きな機材を運び込み、薄暗い堂内から太陽の下に像を運び出す。光も隅々まで当たるよう工夫した。わざと人と並べて大きさを示した。横山松三郎、工藤利三郎、小川一眞、土門拳らが構図や陰影の付け方を革新し、文化財の記録から表現へと進んでいったことが、解説とコラムを読むと分かる。

 漆黒の背景に浮かび上がる仏像の視線に射貫かれる。建造物の周囲を吹き抜ける風や、百年も千年も重なる歳月を意識させられる。対象に目を凝らす緊迫した様子が見えるようだ。古くて表面が傷んでいるように見える写真にも時空を超える力がある。本書には、一般公開されている有名な国宝が多く、実物を見たことがある人は多いはずだ。その場で自分が何を感じたのか思い出しながらページをめくると面白い。

 カメラによって定着されるのは、その時々の最新の状態だが、厳密に言えば、その状態は次の瞬間に目の前から消えている。書名になぞらえれば、写真を見る行為とはロストワールドに迷い込むことと言えるだろう。今やスマホが地球上の至る所で失われた世界を日々量産しているが、撮影がはるかに困難だった時代の写真に、今度は私たちが目を凝らし、対象との向き合い方を探る番かもしれない。

(小学館 1600円+税)=杉本新

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