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 まず、描かれるのは閉塞感だ。

 登場人物たちが生きる世界は、それぞれに狭い。主人公は中学生の女子生徒たち。仲良し2人が連れ立って、もうひとりの仲良しが住む遠い町へ、自転車で漕ぎ出すのだけれど、そこには疾走感も解放感もない。心と身体が固まったまま、足だけがぐるぐるとペダルを漕ぐ。

 遠い町に住むもうひとりの仲良しは、2人と同じ中学に通っていたけれど、ある出来事をきっかけにクラスから排除され、転居と転校を余儀なくされた。ここでは「いじめ」の3文字はほぼ用いられない。彼女たちに覆いかぶさっているのは、そんな3文字で語りきれるような代物ではない。いまは学校に残った仲良し2人組が、スクールカーストのトップに君臨する女子から、転校していった3人目の息の根を止めるべく、追加攻撃を命じられているのだ。転校先の中学へ行って、中傷ビラをばらまかなければならない。

 物語は、それぞれの立場でこの日々を生きる人たちの視点で語られる。少女の父親は秘めた恋人から別れを告げられ、担任教師は好きでもない男とのデートのために浴衣でめかしこむ。転校していった仲良し3人目の少女の母親は、勤め先の高齢者専用マンションで、陰湿な仲間はずれを目撃して娘を思う。そしてスクールカーストの女帝たる少女は、か弱くて不幸続きの母親に苛立ち、自分は戦って戦って勝ち続けるのだと胸に決める。

 大人たちは、少女たちの間で起きていることを、気づかないのでも目を逸らすのでもなく、目の端でちゃんと捉えている。でも、ニガい思いをすることがわかっているので黙っている。読んでいて、胃のあたりがぎゅうっとなる。ピントをぼかすでも、露悪に走るでもない、絶妙なバランスで物語は進む。

 そして、ある瞬間、世界が、ひらける。

 仲良し3人組が愛した音楽。本作の救いとなって全編に流れている(のが聞こえる気がする)その音楽が、彼女たちの閉塞感をぶち抜く。突然、天井に風穴がひらく。見えるのは青空だ。

 彼女たちだけの力で、その風穴は開かない。3人目の少女の母親の、腹の決まりっぷりというか、据わりっぷりというか、そこが大きなポイントであるとは思う。もちろん、彼女たち(母親含む)が望む未来は決して容易くない。でも、ありえなくは、決してないのだ。ありえなくない、希望。そんな光が差し込むだけで、明日を生きられるってことが、人間には、あるように思うのである。

(新潮社 1600円+税)=小川志津子

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