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 インスタレーションのように、本と読者がつくる空間に生まれた一冊だ。美術家内藤礼の詩やエッセイ、断章が100編。中にはたった一言しか記されていないページもある。定型の分類に押し込めることはできない。読む人はどこからでも、どこへでも、ある一節に立ち止まったり、後戻りしたり。余白に浮かんだ言葉によるアートと言っていいだろう。

 書かれている言葉ひとつひとつは誰にでもやさしい。忘れがたいフレーズが幾つもある。「目を瞑るときはひとり。どんな寂しがりも目を瞑るときはひとりで」「窓のむこうに木が揺れる/ただそのことで/さみしかったりさみしくなかったりするのはどうしてだ」「わたしの無力から離れても、わたしはまだわたしだろうか」。あるいは「空を見てよかった」という書名を繰り返し思い浮かべるのも気持ちがいい。

 著者にとって言葉は作品空間にある光や空気や水と等しいのではないかと思った。おそらく美術家がものを書く理由がここにある。読者は多様な解釈の自由を与えられた。自分なりの感じ方で光を当て、陰影を付けて読むことができる。

 作家と作品の関係への言及も興味深い。「人は作り続けてきた。人は生まれて死ぬかわいそうな者だから一生懸命に作ってきた」「作品は人の内部で生成したのに、人から離れてモノになってしまった」

 著者が書く言葉の連なりは、見かけ以上に歯ごたえもある。「気配はあるのに、見あたらない。ひどく引き伸ばされている。大きすぎる。小さすぎ、薄すぎる」「無垢は没頭している」。ふっと迷いそうになる。それでも気が付けばこれらの文字の上で何度も目を動かしている。知りたくなり、感じたくなるのが本書の魅力だ。

 美術作品を目の前にした瞬間、言葉にならない感情が動き、遅れて言葉がやってくる。誰でもない私の心の揺れ、高ぶり。作品を仲立ちとした自分との対話。私たちは1人で立っている。ここまで書いたら、またこの本を手に取りたくなった。

(新潮社 3000円+税)=杉本新

追記:金沢21世紀美術館で5月から予定されていた内藤礼の個展「うつしあう創造」は、昨今の情勢の中、延期された。開催される日が近いことを願っている。

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