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 赤子盗んで新興宗教に入信したり、会社の金盗んで海外に逃亡したり、可愛らしい見た目とは裏腹に穏やかじゃない作風でお馴染みの我らが角田光代。中学時代からうっすら好きな細く長いファンですが、実はエッセーってほとんど読んだことがなかった。静かに狂ったこの作家の醍醐味は、肉と猫を愛する日々を描いた随筆(※イメージです)よりも断然創作だろう、とはなから決めて掛かっていたのだ。それでも読んでみたいと珍しく手にしたのは、まあ、早い話が疲れてたのかな(すんません)。なんかほら、よく知ってる(気がする)人の日常を垣間見てホンワカしたいときって、あるじゃない。

 雑誌「オレンジページ」にて、14年に渡りエッセーの連載を続けている角田。本書はその「散歩シリーズ」第4弾となる書籍である。

 レモンサワーへの愛、スマホのメモ帳アプリに保存された謎のメモ、「おいしすぎるものがそれほど好きではない」という発見、老眼鏡を作ってもらう際、眼鏡屋に「遠近両用にしますか?」と訊かれ反射的にムカッとしたこと、好きな映画を挙げるとき、「人にこう思われたい」という自意識が邪魔をして「おもて向きの答え用の答え」を用意してしまうこと…話題はどれも、まるで茶飲み友達と延々5時間話しているような飾らないことばかり。

 と、ホンワカしているのも束の間。読み進めていくにつれ、「さらっと書いてるからつい読み流しちゃうけどよくよく考えたらちょっと怖い」エピソードがちらほらと目に留まるのだ。例えば猫を飼い始めてからというもの、猫柄に吸い寄せられるようになり、すると友人知人も猫柄をくれ、結果気付けば全身猫柄のコーディネートになっていること。また、「京都の卵サンド」については一度では飽き足らず、卵サンドのその後の話、その後のその後の話、その後のその後のその後の話と、4度に渡って取り上げていること。そのえげつない執念に心がざわつくこと必至。そんな自分の中の恐怖心に気づいたが最後、「アニー」と「シリアル・ママ」を愛するという映画の趣味や、自身に「ホラーさん」というあだ名が付いているという妄想、飼い猫の遊んでる瞬間を捉えた写真にまで恐怖を覚える始末。

 そうかと思えばドラマが終わるとロス状態になるとか、贈り物のセンスが皆無であること、機械に向かって「ねえSiri」って言えないこと、かつて肉好きを公言したため、今でも「カクタは肉」と思われているが、実は肉よりもずっと魚卵が好きなこと、しかしそれがなかなか浸透してくれないことなどなど、共感しかない話題もあって、読後には前よりもずっと彼女のことが好きになっている。

 全身猫アイテムでニコニコ近づいてくるような、唯一無二の魅力が詰まった一冊。フフっと笑顔になりたいときにオススメの一冊だが、多分何度読み返しても、かわいさの向こうにあるヤバさにまずは一瞬引くと思う。

(オレンジページ 1300円+税)=アリー・マントワネット

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