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 著者は、多くの児童文学作品を世に生み出している人物である。魔女を主人公にした人気シリーズもあって、これまでたくさんのちびっ子たちをわくわくさせてきた。その著者がこのたび書きあげたのは、大人たちに寄り添う魔女たちの物語だ。

 とある街に降り立った、若い魔女。彼女がまず救うのは、昔、同じ学び舎で、セーラー服の四角い襟を揺らしながら過ごした同級生だ。人間は魔女よりも歳を取るのがずいぶん速いから、同級生はとっくに大人になって、書店員として働いている。魔女は、疲れ果てた彼女の前に現れ、その記憶をひっかくのだ。誰にも触れないように、誰の記憶にも残らないように、転校生としてひっそりと暮らしていた魔女に、かつて同級生は図書館で、物語の素晴らしさを教えた。その恩を、返したいのだと。

 ここでの魔女は、大嵐を巻き起こすわけでも、毒薬が煮え立つ鍋をかき回すわけでもない。それぞれにもがきながら人生を送っている「ひとの子」に寄り添い、見守る存在である。

 魔女たちは、群れない。付かず離れず、距離を保って共存している。若い魔女は、年上の魔女たちが残した気配や温度を受け継ぎながら生きる。魔女と「ひとの子」、そして魔女と魔女は、見えない何かで結ばれている。

 この前提、この設定がむやみに響くのだ。ひとりで生きる、結ばれながら生きる。大切な誰かと同じ空間で同じ時間を過ごすことが叶わない今、このテーマについて何も感じない者はいないんじゃないかと思う。見えない何かに結ばれながら、魔女はひょっとしたら、私たちの隣に、すでにいるのかもしれない。

 語られるエピソードたちは、物哀しい温かみにあふれている。困難だとわかっていながら、事故で大破した列車から少年を救い出した魔女の最期。彼女が永遠に知ることのなかった、その後の奇跡。あるいは、とある大学生が、幼い日を共に過ごした祖母の、老い、そして愛情。儚い、激しい、懐かしい。魔女の目に映る「ひとの子」の営みは、光も闇もひっくるめて愛おしい。

 最後に束ねられた壮大なエピローグも含めて、どうか家族で読んでほしいと思う。描かれているのは、どんな世代にも響く、人生の機微だ。たとえば親子で、あるいはきょうだいで、この本から生まれた思いを、ぽつり、ぽつりと伝えあう。すべてが過ぎ去ったとき、その対話の記憶は、私たちの財産になるはずである。

(KADOKAWA 1600円+税)=小川志津子

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