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 飛騨の里山にある「あぶらむの宿」を取材に訪ねたのは10年以上前のことになる。人生という旅路で傷つき疲れた心身を癒やし、新たに旅立つ力を取り戻すための宿屋、とあった。コナラ林の落ち葉の感触と築132年の古民家の曲がり梁、主の大郷さんの構えぬたたずまいが記憶に残っている。

 あぶらむ創立30周年を記念した本書で大郷さんは自身の70年余の歩みを振り返り、出会った人々との交わりをつづった。ここには数十冊分の物語の核が詰まっていると思った。

 学生ボランティアとして1968年に訪ねたハンセン病療養所「沖縄愛楽園」の人々との出会いが、大郷さんのその後の人生を決定づけた。立教大学の礼拝堂付牧師となり、学生たちを連れて愛楽園や、太平洋戦争の日米決戦で膨大な犠牲者を出したフィリピンの山岳地、絶対的な窮乏のただ中にあるネパールの農村へと通い続けた。

 資金も当てもなく奇跡の連続で完成したあぶらむの宿、1人100キロを走りつなぐ列島縦断リレーをはじめとするウルトラマラソン計画、家庭裁判所の補導委託で預かった少年たちとの生活、スペインのサンティアゴ巡礼道800キロ踏破……。

 旅路の先々で大郷さんは腹蔵なく語らい、酒を酌み交わし、幾度となく悲しみと感動の涙を流す。助けられ導かれたのは両親や恩師、先輩だけではない。沖縄やアジアの人々は想像を絶する病や差別、貧困を全身で受け止め、その困難を糧にするかのごとき透徹した生き方を示してくれた。彼らの言葉や姿が生きる杖となり道しるべとなった。

 随所に自身の旅行記や先立った師友への弔辞、教え子たちの手紙やレポート、家裁少年の手記などが差し挟まれる。それぞれの文章にどれだけの思いが込められているか。「数十冊分の物語」とはその起伏と曲折の激しさだけを指しているのではない。時を置いてまた読むことになるだろう。

自主出版のため書店などでは販売していない。購入は「あぶらむの会」サイト:https://www.abram-no-kai.com

(あぶらむの会 1600円+税)=片岡義博

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