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 縁あって能楽堂に出掛ける機会がここ数年増えたのだが、ただ座っているだけでは台詞や謡が頭を素通りして、舞台の進行より早くこちらが夢幻の状態に陥ってしまう。古くからの決まりごとや史実、由来といった知識を蓄えなければ、私のような初心者は理解できないと帰り道で痛感している。だが勉強と暗記ばかりでは息が上がるというものだ。

 本書にはこうある。「(事前勉強は)ざっと読んで忘れてしまうこと。ぼんやりわかって見るのが、わたしの一番のおすすめ鑑賞法」「ぼんやり大枠知識で舞台に集中すること。これが、おおいに想像力を活性化させる」。

 元NHKアナウンサーの著者の柔らかい文章が背中を押してくれる。「想像しない限り舞台からはなにも教えてくれない。能役者と観客が共同作業をしてゆくことで、実は作品を一緒に作っていく、能を心から楽しむことになるのだ」(第二章)。

 舞う役者のつま先を蛇に見立てたり(『道成寺』)、その場にいない大勢の家来の姿を感じたり(『安宅』)、能舞台では役者の所作、舞や面の動き方に迫真の場面を見る力が肝要だと分かる。囃子方や地謡を聞き取る力もほしい。想像を鍵に能、狂言に迫る本書は、シリーズの1冊のため書名にその個性を見いだしにくいのが惜しいが、基礎知識も盛り込んでいて手に取りやすい。確かに、知識がなければ大した想像もできない。

 初心者なりに場数を踏もうと思った。回を重ねるうちに、台詞や謡の意味と抑揚、強弱をだんだん聞き分けられる…気がする。能管、小鼓や大鼓に皮膚が反応する感覚も芽生え、装束、面、所作や舞を見て楽しむ時間が延びる…かもしれない。

 能に限らず、自分の力を注ぎ込んで相対するほど鑑賞が面白くなるはずだ。

(マイナビ新書 870円+税)=杉本新

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