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 宮沢賢治の作品には、文学に限らず化学、地質学、宗教、音楽などさまざまな分野から読み解く楽しみがある。賢治を「輝く多面体」と評したのは井上ひさしだが、どんな境遇でも、何歳で読んでも、詩や童話の中に引き寄せられる言葉を見つけることができる。本書の著者谷口義明は天文学者だ。「銀河鉄道の夜」に描かれたジョバンニとカムパネルラの旅をたどり、賢治の宇宙観を語る。

 生と死が静かに交錯する「銀河鉄道の夜」は、何度読んでも胸がせつなくなって、自分なりの「ほんとうのさいわい」に思いを巡らせる作品。途中だけ抜き出して読んでも心に残るフレーズが幾つもあるだろう。本書で谷口は賢治が書いた天の川や天体を巡る比喩的な記述が、現代の天文学から見ても正しいことを明らかにする。作品の冒頭、ジョバンニが理科の授業を受けていると、先生が天の川をレンズに例えて説明した。その言葉から「太陽は天の川銀河の中心にない」という当時の最新の研究成果と重なることを指摘している。膨大な賢治研究では文学論、作家論として深く掘り下げていく本もあるが、本書は作品から出発して読者を別の世界に連れて行くタイプの一冊と言えるだろう。

 谷口は研究者らしく、天文学の歴史や代表的な研究、賢治に関する先行文献から丁寧にアプローチし、銀河や星雲の基本中の基本をカラーの図表とともに解説する。中でも天気輪、鳥捕りなど作中のキーワードと描写を手がかりに星の初歩的な知識を語るくだりに、好奇心を刺激された。

 銀河鉄道に乗る前にジョバンニが夜空で見た「天気輪」を巡ってはこれまでにも議論されてきたが、著者はオーロラ、夜光、対日照といった天体現象の初歩を解説しながら、その正体を探っていく。

 天文学の門外漢である私は本書から、影を作ることができる天体は太陽と月、金星の三つだけという知識を得られた。超新星爆発など賢治が生きていた当時は知られていないはずの激しい現象を思わせる記述が作中にあることも知った。本を閉じて見上げた星空は、遥か遠くで何万年前のものかも分からない光を明滅させている。でも、気持ちの上では距離がぐっと縮んだ気がした。

(光文社新書 1100円+税)=杉本新

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