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 美術家会田誠から生じる磁力はとてつもなく強い。常識や権威といった、往々にして抑圧を伴うものを根底から疑い、笑いのめす磁力に引き寄せられ、世間は目くじらを立てたり快哉を叫んだりして撹拌される。その会田による長編小説は、1980年代半ばに地方から上京して美術予備校に通う二朗を語り手に、美大の学園祭の一夜と二朗の予備校生活を描く。

 まだ何者にもなれない青年が道に迷いつつ恋もする青春小説として文句なく面白いのだが、それだけではない。作中の予備校生たちが画作に打ち込む日々や登場人物の言葉を通して、現代美術を巡る解釈と懐疑を読み取ることもできる。

 浪人生、美大生、予備校講師、美術評論家、何年も浪人生活を送った末に進学を諦めた画家らが、したたかに酔いながら美術観をぶつけ合う。大勢の男女の会話は、至る所にヨーゼフ・ボイス、タルコフスキー、アール・ヴィヴァン、そしてチェルノブイリという80年代の香りをたっぷり塗り込めて進む。時に乱痴気騒ぎにもなる。予備校で「絵心」があると評価されている二朗は芸大受験に落ちて二浪中。その入試の課題は「自由に絵を描きなさい」。その時、何を描いたのか。物語は芸術家としての二朗の核となるものに迫っていく。

 「青春」「ノスタルジー」に収まらないのが本作の読みどころだと思う。会田が連ねる言葉に埋蔵されているのは、人間と自由の緊張関係ではないだろうか。

 「自由に描きなさい」と言われたところで、私たちは本当に制約なく自由に振る舞うことなどできるのか。体や人間関係の不如意から解放されることがなくても心だけは自由でいられるか。自由とは何とも扱いづらい。そんな思考が回り始める。これは作家が企む撹拌か。はっと思い出したのは、おびただしい数の裸の少女たちがジューサーミキサーにかけられている会田の絵画作品を見た時の衝撃だった。

(文藝春秋 1800円+税)=杉本新

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