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 かきあげ。思えば思うほど、不思議な食べ物である。寄り集まっているのは、食感も大きさもまるで異なる食材たちだ。小エビ、アスパラ、薄切りの玉ねぎ。千切りニンジンに、三つ葉やアオヤギ。それらがカリカリの衣によってかろうじてつなぎ止められ、危ういバランスでひとつのかたまりを成している。

 本書は、映画監督・中井戸八郎の物語だ。コメディ映画を得意としてきた69歳。しかし大きな企画から降ろされて、「引退」の二文字がちらついている。シリアスな映画ばかりが高い評価を受ける風潮と、それを避けてきたおかげで日陰の身である今の自分と。しかし悶々とする暇もなく、家を出ていた子どもたちが、なんだか一斉に出戻ってくるのだ。

 無難にサラリーマンをしていた長男の章雄は、「普通に生きる」という足かせに苦しんでそれを投げ出し、引きこもりである次男の真太郎は、食事のときさえ部屋から出てくることはない。トランスジェンダーの「三男」であり「長女」である美子は、長らく連れ添ってくれている「妻」との離婚が成立したばかり。息子の吾郎を連れて、八郎の家に帰ってきた。

 人生がくすぶりつつある八郎とは対照的に、元女優である妻の百合子は、再び現場に戻ろうといきいきしている。そんな中、「世界のクロカワ」との名声を博した大御所映画監督から託された、彼の遺稿が紛失する--。

 それぞれの個性を発揮する家族たちは、なんだかんだ言って、しっかり「家族」である。それぞれにまったく違った悩みを悩みながら、「かきあげ家族」はむくむくとふくらんでいく。それぞれが、自分の人生を思う。自分は何が欲しいのか、自分はどう生きたいのか。そんな彼らの成長譚が、八郎の復活劇にカラリと絡んできらめく。

 人生も折り返しを過ぎると、あらゆるあれこれをそう簡単には「なかったこと」にできなくなる。これまでの道のりそのものが、これからの道のりへの足かせになったりする。けれど同時に、これまでの道のりこそが、これからの道のりへの踏み台でもあるのだ。人は、いつでも、これから人生を始められる生きものである。

(光文社 1600円+税)=小川志津子

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