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 「心のささくれをむしって食べるようなエッセイ」って、すごいキャッチコピー。本書の帯に書かれた言葉だ。どういうことだろうと気になり手に取ってみる。

 お笑い芸人・たんぽぽ川村エミコの新刊は、彼女の幼少期の記憶を中心に綴られたエッセーだ。幼稚園の先生たちが口にした「あの子、静かで嫌だわぁ」「楽でいいじゃない」、父が朝の食卓で突然切り出した「えみちゃん!えみちゃんはあまり綺麗なほうじゃないです」、お友達になりたいとSちゃんに言ったら返された「お友達になるには試験があります」、Tくんの「お前、粘土みたいだな」、ピアノに一緒に通っていたYちゃんがお母さんに言っていた「えみこちゃん、好きじゃない」……。

 言われたことや、されたことが淡々と書かれているが、読んでいて胸がチクチクする。悲しかったりや理不尽だったり、ショックだったあの瞬間をもう一度生き直すように、なぞるように丁寧に描いているからだ。大人の自分が当時を生きて、ふつふつと沸きあがってきた感情や、あのときは言えなかったけど言ってもよかった言葉も綴っている。納得がいかないことがあっても、得意の顔を「ム」にすることしかできなかった「えみこちゃん」の代わりに。

 それでも、宝物のようにピカピカに光る記憶だってある。「粘土」とあだ名を付けたTくんは、鉛筆や消しゴムを落としたら「ほいっ!」と拾ってくれて、掃除の時間のモップ掛けに手こずっていたら「貸せよ!」と言ってサッとモップを奪い、サッと手伝ってくれる優しい子だった。浪人時代に予備校で出会ったIくんは勉強を教えてくれて、時々途中まで一緒に帰ったりもしていた。今でも困ったときには相談に乗ってくれている、心の中のヒーローだという。

 そして、そんなイケメン2人さえも霞むほどに鮮やかに描かれているのが、こけしとの出会いだ。20代後半、芸人をしながら働いていた深夜の焼き鳥屋のアルバイトで心を削られていたとき、たまたま入った雑貨屋で目が合い恋に落ちたという「ファーストこけし」。家でとにかく眺めてはニヤニヤしたり、バイト先にこっそり持って行ったら営業中の声に張りが出た。食器洗浄機で洗った熱々のお皿は「どこかで修行でも積んできたかな私?」というくらいのスピードで取り出せる。前々からこけしに似てると言われていたからか、まるで小さな自分に応援してもらっているような気持ちで頑張れたという。

 小さな頃のささくれを、むしっては傷を確認しチクっと痛みながらそれを食べる。ピカピカ光る優しい気持ちに、今でも背中を押してもらう。どんな記憶も愛おしむことは、つまりは自分を抱きしめることなのかもしれない。

(集英社 1200円+税)=アリー・マントワネット

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