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 いきなりの私事で恐縮なのだが、「就職活動」なるものが戦いの火蓋を切って落とされると同時に、「就職超氷河期」なるものに急襲された世代である。社会とは、私たちを拒むものだ。と思い知りながら育ったふしがある。

 そう思って40代半ばを過ぎた今、この本に出会って、ちょっと目からウロコを落とされている。

 物語の主人公は、とある企業のベテラン社員である。出版事業とか、結婚事業とか、グループ企業としてあれこれ手掛ける大きな会社の中で、転職エージェントとして顧客の人生を担うカウンセラー業に就いている「香澄」の物語だ。

 彼女はかつて、同じグループ企業が取り組む結婚斡旋業に携わっていた。しかし、とあるきっかけで夫の浮気に気づき、離婚を経てから、結婚や恋愛のたぐいにはどうも乗りきれずに生きている。「離婚を歴た者が結婚をアドバイスしてよいものかどうか」という思いが、彼女を転職アドバイザーの道へと転換させた。

 「わたくしごと」と「職業」との距離感について、多くの女性たちはいつだって悩まされている。家族を持つ女性は特にそうだ。こんなことって男性にはあるのだろうか。少なくとも本書で描かれているように、夫の転勤に妻が追随することはあっても、「妻の転勤に合わせて夫が転職をする」という例はほとんどないように思う。

 どうも釈然としない、もやもやとした気持ちの中で、本書に描かれる「ほんとうに訴求したい人生における『働き方』について徹底的に寄り添ってくれるアドバイザー」の存在は、私たちの心を少し軽くする。目の前の内定を獲りに行くだけではなく、その人の現時点でのベストな道を、アドバイザーとして共に探り歩むという、そんな立ち位置の登場人物に、読みながらどこか救われるのだ。

 主人公に関わった幾人もの顧客たちは、姓に数字を抱くかたちで次々と登場する。「一ノ瀬」とか「二宮」とか、数字を冠した登場人物が現れるたびに、私たちはそれぞれに異なる生き方を目撃する。そして彼らがたどり着く景色。晴れやかなそれが描かれる者もあれば、そうでない者もある。小説だからってみんなにハッピーエンドが用意されているわけではない。残酷だが、それが人生だ。それぞれの幸福は、内定を得た時点で決まるものではまったくない、というのが本書のきらめきのひとつだ。内定を得ようが得まいが、幸福はある。どこかに必ずある。それに向けて顔を上げるか否かは、本人の心ひとつにかかっているのである。

(祥伝社 1500円+税)=小川志津子

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