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 この人が登場するだけで、魔法のように空気が弾んでほころんだ。ベタなボケも泥臭くなく、どこか上品で粋なのだ。昭和を代表する喜劇人、三木のり平の仕事を幼少時から間近で見てきた長男が、関係者の証言を引きながらその足跡を語った。

 流行語にもなった映画「社長シリーズ」の「パァーッといきましょう!」というせりふや桃屋のCMで知られたのり平だが、本領は舞台にあった。エノケンと共演したアチャラカ喜劇から、劇作家菊田一夫と組んだ東宝ミュージカル、女房役を務めた森繁劇団、明治座での座長公演、「放浪記」をはじめとする商業演劇の演出、別役実の不条理劇まで。

 フィルモグラフィーの演劇版と言えばいいのか、年代順に作品のあらすじ、作家の前口上、台本の一部を収録して各舞台の全体像を伝えている。父と同じく笑いの世界に身を置く著者の批評的な語りに加えて、ユニークな試みは作品に即してのり平や共演者、作家、評論家らによる回想や短評を著書や雑誌、プログラム、テレビ番組からふんだんに引用している点だ。その分量たるや全427ページの半分を超えるだろう。

 登場する顔ぶれがまた豪華。古川ロッパ、森繁久彌、森光子、古今亭志ん朝、2代目水谷八重子、中村勘三郎、萩本欽一、倉本聰……。彼らが楽しげにのり平を語る。けいこや本番で役者やスタッフはアドリブ交じりのボケに涙を流して笑い、共演者は本番中もその芸を見るため舞台のソデに詰めかけた。森繁いわく「ぼくよりうまいなぁ」。

 のり平の芝居の源には幼い頃から浴びるほど見聞きした落語や歌舞伎の蓄積があったことがわかる。関係者の証言が天才喜劇人の技と芸、人となりを多角的に照らし出すと同時に、戦後の商業演劇史、喜劇史の一断面を伝える貴重な記録になっている。

 不条理劇に主演した晩年ののり平に取材したことがある。「不条理? 何の違和感も感じませんねぇ」。舞台は往年の爆笑ではなく微苦笑の世界だったが、究極のナンセンス喜劇だった。

(青土社 2600円+税)=片岡義博

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