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 繊細な毛並み、豊かな表情、しなやかな体の動きのこの猫は、紙版画で描き出されているんだそう。光の宿った大きな瞳に、吸い込まれるようにページをめくった。

 イラストレーター・坂本千明の新刊は、一匹の黒猫が主人公の物語だ。かつて「声を出すのは危険」だと教わって以来、黒猫の「ぼく」は道端の石ころと同じように、じっと息を潜めて暮らしている。黙っていれば誰に狙われることもなく、平和に過ごせると信じて。

 そんなある晩、「こんばんは」という声が聞こえ、「ぼく」は思わず顔を上げる。その日を境に、「ぼく」の生活は少しずつ動き出していった……。

 孤独だった一匹の猫は、ひとりの人間との出会いによって暖かい部屋を、食料を、安全を手に入れ、そして自分の中から湧き出る「声」、心の奥底にしまいこんでいた感情を、発することを覚える。

 「人間の飼い主に保護され大事に育てられて、初めて猫はのびのびと自分らしく暮らせるようになった」という着地点は若干恩着せがましく感じられなくもないけど(猫に配って回ったら、ちょいちょい鼻で笑われそう)、著者の命との向き合い方が表れている結末のように思った。

 例えば継続させること、この瞬間を生き切ること、自由であること、子を産み種を残すこと……。猫だけではない、すべての命のあり方はきっと何通りもあって、何が正解だとかは特にないだろう。そんな数多ある正解の中のひとつ、坂本が選んだこの結末は、温かくて優しい。

(岩崎書店 1500円+税)=アリー・マントワネット

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