米サンフランシスコで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の場で注目されたのが、中国の習近平国家主席とバイデン米大統領の首脳会談だった。習氏の訪米は約6年半ぶりで、バイデン氏とは約1年ぶりの会談となった。
続いて岸田文雄首相も習氏と約1年ぶりの日中首脳会談に臨み、中国との対話と関係の再構築が日米共通の外交課題に浮上した。
台湾海峡や南シナ海で中国軍機が米軍機に異常接近する危うい事例が相次ぐ中、米中間の焦点となったのは不測の事態を回避する意思疎通の再開に向けた協議である。
一方、日中間では、東京電力福島第1原発の処理水を「核汚染水」と呼んで日本の海洋放出に反対する中国に対してどこまで意思疎通が図れるかに関心が集まった。
米中会談は当初の想定通り、国防当局や軍高官による対話の再開で合意した。人工知能(AI)に関する政府間対話の構築や気候変動対策でも折り合うなど、大国同士が一定の歩み寄りを見せた形である。
日中間でも、共通の利益を拡大させる「戦略的互恵関係」を包括的に推進する方針を改めて確認した。共に隔たりを埋めようとする姿勢を示したことは評価したい。
中国も不動産市場の低迷や輸出の鈍化など、経済減速という大きな国内課題を抱えている。APEC首脳会議では、米国主導のインド太平洋経済枠組み(IPEF)など中国に対抗する連携も各国で議論された。中国包囲網に対抗するためにも、米国が呼びかけた「関係正常化」の対話に応じる方が得策との判断が、習指導部にはあったようだ。
ただ米中、日中間の根深い問題は依然、積み残されたままである。
昨年8月のペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問に反発した中国が一方的に中断した国防対話の再開はめどが立った。だが習氏は台湾について「必ず統一する」と明言し、米国に台湾への武器支援をやめるよう要求して議論は交わらなかった。
日中間でも、処理水放出を巡る日本産食品の輸入規制撤廃や、中国当局が拘束した邦人の早期解放などは今後の協議に託された。懸案の解決には程遠いのが現実だろう。
ただ米中、日中とも経済面ではかつてなく緊密に結び付いている。「デカップリング(経済切り離し)」を図る動きも見られるが、今以上に経済摩擦が際立てば、軍事的な緊張も高まる恐れが拭えない。
日本は両大国の間に立って外交の橋渡し役を担える位置にいる。岸田政権は存在感と影響力を高める中国との溝を埋めるため、首脳外交を含めて対話を加速すべきである。