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尼崎JR脱線事故

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安全を確認しながら電車を運転するJR宝塚線の運転士
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安部誠治・関西大学教授(交通政策論)
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 乗客106人が死亡した尼崎JR脱線事故は25日、発生から15年となる。「安全への取り組みの原点」。JR西日本は事故をそう振り返る。しかし、事故を経験していない社員が半数を超え、社内での急速な風化もささやかれる。加えて新型コロナウイルスの感染拡大で悪化する経営状況が、安全対策に与える影響を危惧する声も。「安全最優先の企業に生まれ変わる」と誓った15年前。その誓いは今につながっているのか。JR西の安全に対する姿勢が再び問われている。(前川茂之)

■事故リスク把握「非懲戒制度」4年 社員報告減少、形骸化の恐れ

 人為ミスを犯した乗務員は処分しない-。2016年4月、JR西日本は鉄道業界で初めてヒューマンエラーによるミスを非懲戒とする制度を導入した。脱線事故以来、「もの言えぬ雰囲気」「いきすぎた上意下達」などの指摘を受けてきた同社。制度は今年5年目に入ったが、企業風土の刷新は道半ばだ。

 「対症療法的な再発防止対策に偏り、リスクを予測して事前に対策を講じることができていなかった」

 JR西は、18年に掲げた5カ年の「安全考動計画」で、事故の最大の反省点として「事前に防げなかったこと」を挙げた。

 脱線事故があった05年以降、鉄道業界の安全対策は、事故が起きてから対策を講じる「事後チェック型」から、事前にリスクを把握して対処する「リスクアセスメント」へと大きく変換。JR西も社員に、事故につながりそうな「ヒヤリハット」事案などを積極的に報告させることで、事故の未然防止を目指す。

 同社の非懲戒制度は、故意や悪質な怠慢がない限り処分しないと規定。18年度は、赤信号誤進入や30分以上の遅れなど80件の処分検討事案が報告されたが、その「ほとんど」が判定委員会で人為ミスと判断され、処分なしになったという。

 同社安全マネジメント戦略室の高本桂也担当室長は「ヒューマンエラーは結果であって原因ではない。エラーが起きやすいリスクを抽出できれば、より高度な安全対策につなげられる」と制度の趣旨を説明する。

 「信号機が見えにくい」「ホームドアから停車位置が50センチずれてしまった」などの小さな気付きの声が上がってくるようになったといい、高本室長は「事故前は現場から声を上げれば逆に責められた。とても言い出せる雰囲気になかった」と変化を口にする。

 ただ、肝心の報告件数は過去10年間でみると年々減少。18年度は、オーバーランなど比較的軽微な「安全報告」が約1万1千件で、ここ4年間はほぼ横ばい。同社は「安全設備の充実で、現場の社員が感じるリスクも減っている」と理由を説明するが、制度導入から4年がたち、形骸化も指摘される。

 19年に出された、新幹線の台車が破断寸前のまま運行を続けた問題の調査報告書は、JR西の各担当者が判断を相手任せにしていた「相互依存」に原因があると指摘。同社の組織風土にあらためて苦言を呈した。長谷川一明社長は「報告文化の醸成は一朝一夕ではできない。息の長い取り組みだが、組織を挙げて取り組んでいく」と話す。

■意識継承トップの姿勢次第 安部誠治・関西大教授

 JR西日本はこの15年間でどう変わったのか。事故前から同社の安全対策を見つめ続け、事故調査報告書の情報漏えい問題などを調べた検証チーム座長や、2017年に起きた、新幹線の台車が破断寸前のまま運行を続けた問題の有識者会議で座長を務めた、関西大学の安部誠治教授(交通政策論)に聞いた。

 事故はヒューマンエラー問題の重要性と、リスクアセスメントによる事故の未然防止という二つを問い直した。事故当時は「責任事故」という捉え方が一般的だった。要するに乗務員がエラーをするから事故につながる。たるんでいる乗務員にきちんと罰を与えれば事故は減るというのが、JR西だけでなく、日本の鉄道業界全体に共通する考え方だった。

 しかしJR西は、より安全にしていくためには、こうしたヒューマンエラーの捉え方が、かえって事故につながることに気付いた。

 安全への見方を変える上で一番大きかったのは、遺族らと会社側の両者による課題検討会と安全フォローアップ会議だろう。JR西の幹部と一緒に事故原因を究明し、突き詰めていったことが、同社を大きく改革の方向に促した。結果、ヒューマンエラーの非懲戒制度や外部評価の仕組みなど、鉄道業界で初めての取り組みが着手された。

 ただ、JR西は大きな組織。全員が一丸となって一つの方向に行くことはなかなか難しい。端的に表れたのは新幹線台車亀裂による、事故につながりかねない「重大インシデント」だった。電車を止めることは、安全を優先する上で一番大事なふるまい方だ。しかし、リスクコミュニケーションのありようも含め、脱線事故から十数年の歳月が流れているのに、なお安全文化が浸透しきれていないということが示された。

 リスクアセスメントの取り組みで最も重要なのは、未知のリスクへの向き合い方。自社だけではなく、他社や海外で起きている事例を積極的に研究するなど、リスクに対するアンテナを広げていく必要がある。

 事故から15年がたち、風化は避けられない。組織には人事異動があり、人が変わると事故直後の安全に対する感度や向き合い方は100%継承されない。大切なのは、そのことが組織として認識されているか。薄まることが分かっていれば、薄めないような努力をするはずだ。

 よく言われることだが、安全管理の当否はトップの姿勢にかかっている。会社の中枢部が、事故をどのように継承しようとしているのか。15年という歳月がたつ中で、事故の意味を問い直す時期が来ている。  

■安全投資、コロナ危機で視界不良

 新型コロナウイルスの影響で今、JR西日本の経営は大きな危機を迎えている。緊急事態宣言の発令などで利用者は激減。収入は前年度の半分以下に。同社は安全投資への影響を否定するが、先行きは不透明だ。

 同社の4月1週目(1~7日)の運輸収入は、対前年6割減。特に山陽新幹線は、利用が約8割減るなど落ち込みが激しく、減便を見据えてダイヤの見直し作業に入った。長谷川一明社長は「経営環境はかつて経験したことのない極めて厳しい」と強い危機感を示す。

 安全施策を巡る課題では、少子高齢化に伴う働き手不足も深刻化。特に線路や車両など、メンテナンス現場での人手不足が顕著になっている。2018年度はグループ会社で2件の死亡労災事故が発生。技術力の低下や、関連企業との連携不足が指摘されている。

 鉄道業界では沿線人口が減る中、ホテル事業や不動産事業など、鉄道以外に力点を置く動きが強まっており、同社もその流れに乗ろうとしている。

 こうした一連の動きと安全への影響を危ぶむ声に対し、長谷川社長は「われわれは鉄道事業者で、事故を起こした加害企業。安全なくして成長はない」と改めて強調。危機の状況だからこそ、鉄道事業者として真価が問われている。

2020/4/21

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