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尼崎JR脱線事故

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柳田邦男さん(資料写真)
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柳田邦男さん(資料写真)

 乗客106人が犠牲となった尼崎JR脱線事故は、私たちの社会にどんな教訓をもたらしたのか。約60年にわたって事故や災害などを取材してきた、ノンフィクション作家の柳田邦男さんに聞いた。

 脱線事故は、社会として「安全安心」を考える大きな契機になった。それまでの鉄道事故は、現場で失敗した人だけの責任にされた。そうではなく、なぜエラーが生じたのか。背景分析や組織的要因を解き明かすことこそが、安全にとって重要ということに社会が気付いた。

 もう一つの特徴は、事故の被害者同士の連帯が生まれてきていることだ。

 これまで日本社会では、被害者の声はほとんど無視されてきた。加害企業は、被害者を損害賠償請求という次元でしか捉えず、被害者がどんな苦しい思いや悲しみ、喪失感を抱えているか、そうした人間的なものに目を向けてこなかった。

 これに対し、脱線事故をはじめ、日航ジャンボ機墜落事故や明石歩道橋事故、信楽高原鉄道事故、東日本大震災などの遺族が緩やかに連携するようになってきた。互いに情報交換をしたり、それぞれの事故の日に慰霊訪問したりするなどの交流を続けている。

 かつては被害者がどれだけつらい思いをしても、ひっそりと泣き明かすしかなかった。しかし、緩やかな連帯によって癒やされ、あるいは支え合っていく。そして、安全問題について発言するようにもなった。

 コンピューターや人工知能(AI)社会が進む中で、効率主義や成果主義、営利主義はより支配的になっている。そうした傾向に歯止めをかけることができるのは、やはり被害者の声に真摯に耳を傾けることだ。

 悲しみや苦しみといった被害の真実について知ることが、社会の安心安全を作りあげていく上で大きなモチベーションとなる。行政もそのことに向き合うようになってきた。

 命を大切にする社会を築くには、決して事故の被害の深さを忘れてならない。それは、どこまで強調されてもされすぎることはない。(電話取材、聞き手・前川茂之)

【やなぎだ・くにお】1936年栃木県生まれ。NHK記者を経て作家となり、災害や事故、医療問題などをテーマに執筆。運輸安全委員会の外部有識者会議メンバーや、政府の東京電力福島第1原発事故の調査・検証委員会委員なども務めた。

【記事特集リンク】尼崎JR脱線事故

2020/4/26

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