尼崎JR脱線事故
乗客106人と運転士が亡くなった兵庫県の尼崎JR脱線事故は25日、発生から16年を迎えた。昨年に続き新型コロナウイルスの影響で追悼慰霊式はなかったが、事故現場の追悼施設「祈りの杜(もり)」(尼崎市久々知3)には献花の場が設けられ、同日午後5時までに75組が訪れた。「あなたに会いたい」「兄ちゃんの分まで頑張って生きているよ」「これからも見守って」-。遺族らはそれぞれの思いを胸に花を手向けた。
■家族亡くした上田さん親子
事故で次男昌毅さん=当時(18)=が犠牲になった上田弘志さん(66)=神戸市北区=は25日午前、三男篤史さん(31)=同市東灘区=と事故現場を訪れた。
篤史さんには昨年4月、長女が誕生。この日は「兄ちゃんの分まで頑張って生きているよ」と報告し、「一緒に生きていく妻と子どもも合わせて応援してほしい」と呼び掛けた。
篤史さんは看護師として医療現場で働く。心が折れそうなときもある。「でも見守って、後押ししてくれていると思っている。これからもそばで見守っていてね」
弘志さんにとって、事故現場はこれまで胸が詰まる思いがする場所だったが、今年は初孫のかわいらしさを報告し、「気持ち的にはほっこりした」。
「昌毅に『おじいちゃんも、もうちょっと元気で長生きして孫の成長をみてやらなあかんで』と言われているような気がして」
16年は「あっという間」だった。JR西日本も事故後に入社した若手社員が増えた。「個人個人が事故について考え、風化しないように、より安全な会社にするにはどうしたらいいか」
新型コロナが落ち着いたら、若手社員に安全の大切さを直接伝えたいと考えている。(高田康夫)
■夫亡くした原口佳代さん
夫浩志さん=当時(45)=を亡くした原口佳代さん(61)=宝塚市=にとって今年はいつもと違う4月25日になった。例年は追悼慰霊式への参列で慌ただしい朝になるが、今年は事故が起きた午前9時18分ごろ、事故現場でしばらく1人で手を合わせた。「一番そばに感じられる場所で、ゆっくり話せた」「会いたい」-。思いがこみ上げ、涙が止まらなかった。
ピアノ講師の原口さんは事故後、追悼慰霊式で献奏し、各地で命の大切さを伝えるコンサートを開催。音楽を通じた活動を続けてきた。月命日は決まって事故現場に足を運ぶ。一昨年の4月25日には初めて、発生とほぼ同時刻に現場を通る快速電車に乗った。
「事故と向き合い、がむしゃらに生きてきた。一人でよく頑張った」。そう思える今年は、少し肩の力が抜けた気がした。
この日事故現場に立ち、気になったこともある。若い社員が目立ち、決められた作業を淡々とこなしているようにも見えた。「JR西の社員になるということは、遺族の悲しみ、苦しみを背負って働き続けるということ。会社全体に浸透しているのだろうか」
還暦を迎え、残りの人生を考えるようになった。「これからは自分のために生きよう。そして、命が尽きるまで事故を語り継ぐ」。決意を新たにした。(石沢菜々子)
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