デブ猫

マルのさすらいのヒーロー⑮【かなしきデブ猫ちゃん 広島編】

2025/07/26 12:00

前回ぜんかいまでのあらすじ



 安芸高田市あきたかたし郷野小学校ごうのしょうがっこうで「タカモト」「モトハル」「タカカゲ」と名乗なの三匹さんびきのネコに出会であったマル。モトナリにいにたとつたえると、「わせるかどうかはおれたちにってからだ」。三匹さんびきれられてマルは校舎こうしゃあしれた。



◆  ◆



 のいいかおりがただよっていた。


 かつては人間にんげん使つかっていたという郷野小ごうのしょう校舎こうしゃには、たくさんのネコがいた。


 それぞれの背中せなか一本いっぽん二本にほん……。タカモトたちのように三本さんぼん背負せおうネコはあまりいない。


 校舎こうしゃ二階にかいがったところで、突然とつぜんぞうきんをわたされた。当然とうぜん腕前うでまえきそうものとおもっていたので、オレは「えっ?」とこえらした。


 タカモトがふんっとはならす。


おれたちは毎日まいにちこれで修業しゅぎょうしている。この廊下ろうかおれたちの道場どうじょうだ」


 ざっと五十ごじゅうメートルはありそうななが廊下ろうかだ。


 いきつくもなく、三匹さんびきがぞうきんけの姿勢しせいをとった。


 あわててオレもスタート位置いちにつく。


 どこからかちいさなネコがあらわれた。


「みなさん、準備じゅんびはいいですか? それでは、よーい、ドン!」


 いっせいにスタートをった三匹さんびきを、オレもいかけた。






 おもっていたよりもずっと大変たいへんだ。すぐにあせきこぼれ、あしがガクガクしはじめた。


 ほんのじゅうメートルすすんだだけで、オレはへこたれそうになった。それでも……。


 なんとかあしまえうごかしつづける。さき三匹さんびき懸命けんめいいかける。


 オレはかなしきデブねこちゃん。逆境ぎゃっきょうにはめっぽうつよいんです。


「そこんとこよろしく!」と大声おおごえさけびながら、まずまえのタカカゲをり、次にモトハルを、そしてゴールの直前ちょくぜんでタカモトをかわしきって、そのまままえのめりにたおんだ。


 ハァハァハァ……。


 いきらしながらかえると、三匹さんびきしんじられないといった様子ようすでオレをている。


 さぁ、約束通やくそくどおりモトナリにわせてくれー。


 そうおうとしたときだった。くろく、おおきく、おもたいかげが、まえあらわれた。


 ゆっくりとかおげると、そこになぜか化粧けしょうをしたモトナリがっていた。


「えっ?」とくちにしたオレにかおちかづけ、モトナリがしずかにくちひらく。


はなしはあとだ。ついてこい」


 そううモトナリにれていかれたのは、かつて図書室としょしつだったという部屋へやだった。


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