デブ猫

マルのさすらいのヒーロー㉓【かなしきデブ猫ちゃん 広島編】

2025/10/04 12:00

前回ぜんかいまでのあらすじ



 天狗てんぐのオテンから大朝おおあさのテングシデ群落ぐんらくについておしえてもらったマル。オテンの背中せなかってかったのは一面いちめんはなみだれる八幡高原やわたこうげんあかソバのはたけひがしそらから太陽たいようかおし、カープぼうのようにあかまっていた。



   ◆     ◆



 オテンとはあかソバばたけわかれることにした。


「オレは結構けっこうケンカがつよいぜ」と息巻いきまくオテンを合戦かっせんみたくなかったからだ。


 旅立たびだつオレに、オテンはふたつのことをつたえてきた。


 ひとつは、たびわりにマツダスタジアムで再会さいかいしようということ。


 もうひとつは、厳島いつくしまかう途中とちゅうで、有力ゆうりょく武器ぶきはいるということだ。


あぶなくなったらワシをべよ! どこだってこのつばさでひとっびじゃけ!」


 つオテンにって、オレは〈安芸太田町あきおおたちょう〉にやってた。


 階段状かいだんじょうつくられたんぼがについた。黄金おうごんかがや稲穂いなほこころうばわれ、はじめはうっとりとれていたのに、そのうちおなかがグーグーった。


はらってはいくさはできぬ」と、最初さいしょったのはだれだったのだろう。きっといしんぼうだったにちがいない。






 オレと仲良なかよくなれただろうなとおもいながらあるいていると、不思議ふしぎ光景こうけいくわした。


 線路せんろはないのに、えきがあるのだ。〈加計駅かけえき〉という案内あんないほうあるいていくと、あまかおりがはなをくすぐった。かえると『鯛焼たいやき』の文字もじはいる。


 タイはオレの大好物だいこうぶつだ!


 あわててはしっていくと、ちょうどみせじまいしたところのようだった。店主てんしゅのおじさんがなかからてきて、おおきくノビをしている。


「ん? なんだ、デブねこ鯛焼たいやきがいたいんか?」


「ニャニャン!」


「ネコなのに、わっとるな。じゃあ、ちょっとっとれ。特別とくべつじゃけぇな」


 オレはこれ以上いじょうなく尻尾しっぽった。そして三分後さんぷんご、おじさんがってきてくれたのは、オレが想像そうぞうしていたタイとは姿形すがたかたちがまったくちがった。


あついからな。やけどするなよ」


 やさしくあたまをなでてくれたおじさんに、一応いちおう「ニャン♪」とおれいを言って、オレは加計駅かけえきのベンチにこしかけた。


 そとはカリッと、なかはフワッと……。くちいっぱいにあまさがひろがる。


 タイとはてもつかぬあじだけれど、なみだるほどのおいしさだ。


世界せかいにはこんなにおいしいものがあふれてるのに」と、れなずむまちつめながら、オレはまたひとごとっていた。


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