ポギーに連れられ、オレはすぐにウワサの黒猫に会いにいった。
黒猫は〈縮景園〉という庭園でボンヤリと陽を浴びていた。
とてもキレイなメスだった。顔立ちや真っ黒な毛並みが美しいだけでなく、気高い雰囲気というか、優美さを感じさせた。
「こ、こんにちは。オレはマル。三歳のハチワレだよ」
それこそ絵画の中から飛び出してきたかのような気品にひるみながら、オレの方から声をかけた。
黒猫は身体を震わせ、おそるおそるオレを見つめた。
「私は……自分の名前がわからないの。黒猫であることしかわからない」
ポギーが困ったように「とりあえず僕たちはノアールって呼んでるよ。“黒”という意味の言葉なんだ」と肩をすくめた。
オレは「となりに座ってもいい?」と許可を得てから、ノアールの横に腰を下ろした。
不安そうな顔をするノアールに、オレはあらためて質問する。
「帰る場所がわからないって、どういうこと?」
ノアールは不思議なことを口にした。
「私にもよくわからないの。ただ、自分の居場所がここじゃないということだけはわかってる」
「居場所?」
「私は全然違う場所に住んでいた。でも、それがどこかはわからない。なぜか記憶に残ってない」
「覚えていることは一つもない?」
ノアールは頼りなく首をひねった。
「一つだけ記憶にある景色がある。私はどこかの庭にいた。緑が豊かで、キレイな花が咲いていて、大きな建物があって、私はその大きな庭で自由気ままに遊んでいた」
「記憶の庭--」
オレはボンヤリと繰り返した。あまりにもヒントが少ない。そんな庭、星の数ほどあるだろう。いまいる縮景園だってその一つだ。
ノアールもきっとそれを頼りに、ここを訪ねたに違いない。
ノアールの不安そうな横顔を見ていたら、オレは思わず笑ってしまった。
「大丈夫。その庭、オレが必ず見つけ出す」
ノアールの瞳が輝いた。オレは大きくうなずいた。
「悩んでたって仕方がないよ。まずは情報集めからだ。期待してていいよ、ノアール」