デブ猫

スペシャルインタビュー

2022/04/12 09:30

 もっと広い世界を見てみたい! 愛媛新聞紙上で人気に火のついた創作童話「かなしきデブ猫ちゃん」は、16日から連載の場を神戸新聞へと移す。愛媛県内を3度も旅してきたクールなオス猫「マル」が海を渡り、摂津、播磨、但馬、丹波、淡路からなる兵庫五国へ。兵庫編「マルのはじまりの鐘」ってどんなお話? 冒険を通じて伝えたいことは? 作者の早見和真さんとイラスト担当の絵本作家かのうかりんさんに聞いてみた。


僕のあこがれ マルに投影(早見和真さん)


 -愛媛新聞と神戸新聞をまたぐ異例の連載。


 「多くの自治体が地方再生に取り組む中で、『子どもが本を読む町』というデータをつくることができたらその土地は勝てますよ。その一つの答えが『デブ猫ちゃん』だった。自分たちの住む町を舞台にした現代の物語があれば、絶対に読むでしょ。それができるメディアは地方紙しかない」


 -テーマは、広い世界を見ること。


 「子どものうちから、自分の住む町以外の土地にあこがれてほしい。その町の良さって、住み続けていると分からないから。一度広い世界に出て、古里を外から見る。で、やっぱりその場所が好きなら、選び取ればいいんじゃないかな」


 はやみ・かずまさ 1977年神奈川県生まれ。2008年「ひゃくはち」で作家デビュー。15年「イノセント・デイズ」で日本推理作家協会賞、20年「ザ・ロイヤルファミリー」で山本周五郎賞。ほかに「店長がバカすぎて」「あの夏の正解」「笑うマトリョーシカ」「八月の母」など著書多数。



 -なぜ猫を主人公に?


 「マルには僕のあこがれが投影されてる。『かなしき』は『悲しき』だと思われがちだけど、漢字を当てるなら『哀』であり『愛』。人間だとしらじらしくなるような、哀愁漂う“令和のハードボイルド”を背負わせたかったんですよ」


 -「デブ猫」のタイトルに込めた思いは?


 「こんな言葉、見たくもない人だっているでしょう。でも太っていることをちゃかし、『デブ』を悪口として存在させていることが悪。それを見て見ぬふりをすることこそ、今の社会の息苦しさの正体だと思う。マルをかっこよく描くことで『デブ』のニュアンスを変えたいんです」


 -読者の子どもたちに一言。


 「自分ではない誰かの考えを知り、想像力を鍛えるには物語が一番。読んでくれた皆さんが豊潤な世界をつくっていく未来を願いながら、ワクワクするマルの冒険を書いていきます」



新しい挑戦 ワクワク(かのうかりんさん)


 -マルのキャラクターづくりはどこから?


 「実は早見さんの家の飼い猫がモデルです。こんなに太ってないけれど、ハチワレ模様や鼻の頭のあざはそのまま。描いた瞬間に『コレだ!』と感じました」


 -新聞連載の手応えは?


 「実在の看板を描いたり、版画家さんとコラボしたり。絵本よりも自由に遊ぶことができましたね。文章の部分も多く、大人にも読み応えのある作品になっているのでは」


 かのう・かりん 1983年愛媛県今治市生まれ。動物や自然をテーマに絵を描く。「いろんなおめん」でフジテレビBe絵本大賞入賞。おもな絵本に「おやすみ おやすみ みんな おやすみ」(金の星社)、「どろぼうねこのおやぶんさん」(文芸社)など。



 -兵庫編ももうすぐ。


 「幼い頃、今治港から神戸港に着いた時のワクワク感がよみがえります。生まれ育った愛媛とは別の緊張感もありますが、マルと同じで新しい挑戦は大好き。新鮮な気持ちが絵にも表れたらいいな」


 -連載を通して子どもたちに伝えたいことは?


 「身近な場所から物語は始まり、ちょっと足を伸ばせば冒険が待っています。兵庫の中にも知らない場所や美しい風景がこんなにあるんだよって知ってほしい」



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