【連載】学校いま未来 第4部 新しい学び(3)先生の本業
2020/06/11 09:48
河村壮範教頭(左)の隣で作業をサポートする水野知子さん=神戸市中央区、湊翔楠中学校(撮影・大山伸一郎)
午前8時に出勤すると間もなく、電話が鳴る。
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「本日、学校を休ませたいんですが」
「分かりました。担任に伝えます」
神戸市立湊翔楠(みなとしょうなん)中学校(中央区)の職員室。教頭席の隣に座って、保護者からの電話をさばくのは水野知子さん(53)。肩書はスクールサポートスタッフだ。
月曜から金曜まで、午前中4時間の勤務はあわただしい。約470人の生徒に配る学校便りやお知らせをコピー。インターホンを押す宅配便や遅刻した生徒に対応。備品を取り扱う業者とやりとり…。
「私も、保護者の一人だったんですよ。こんなに学校が忙しいなんて思ってもいなかった」
神戸市教育委員会は、水野さんのようなスタッフを2017年度から配置し始めた。教頭や一般教員の手を煩わせていた業務を担う。
「彼女がいるから、教員が本来の仕事に集中できる。全然違います」と河村壮範(たけのり)教頭(50)。
本年度は、規模の大きい小中計90校に配置。さらに、新型コロナウイルス対策の補正予算案に70校分追加した。それだけ現場からのリクエストが多い。
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日本型学校教育。文部科学省は最近、この言葉を使う。欧米のように教員の仕事が授業に特化しているのとは違い、生徒指導や部活動まで子どもの生活を丸ごと見る日本。彼我を比べ、「小さな学校、大きな学校」との言い方もある。
文科省の中央教育審議会(中教審)特別部会は17年、初めて教員の業務仕分けを例示。特に整理が必要な業務を14項目挙げ、三つに区分した。
(1)学校以外が担う業務
(2)必ずしも教師が担う必要のない業務
(3)教師の業務だが、負担軽減が可能
(1)(2)が4項目ずつ、(3)は6項目。半分弱は「先生がやらなくてもいい」仕事との考え方で、「授業、学級経営、生徒指導に専念できるようにすべき」と打ち出した。
同部会委員のコンサルタント妹尾昌俊さんは「ワンオペの何でも屋だった先生を解放する必要がある」と指摘する。
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教員の「コア(核となる)業務」かどうか、曖昧なものの象徴が部活動だ。中教審の仕分けでは(2)に当たる。
すでに市教委も見直しを進め、朝練禁止や原則水曜休みなどガイドラインを示している。外部の指導員285人も確保した。
コロナ禍で部活は長く中止になった。神戸市立中で野球部顧問を務める男性教員は「びっくりするぐらい時間が空いた」と苦笑する。
土日や深夜まで部活漬けの日々が一転。家庭学習の教材や学級通信作りに充てた。「働き方を見直すきっかけになった」と言うものの、「野球部の指導は教師を目指した理由でもある」と熱意を語る。
市教委は本年度中にモデル校を指定。民間のコンサルタントを入れ、業務仕分けを行う方針だ。「ただ」と担当者。「教員は個人商店。自分の仕事を他の人に手伝ってもらうのは苦手」 どこまで意識を変えられるか。教師たち自身が持つ「教職観」にかかわるだけに、一筋縄ではいかない。(井上 駿)
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