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加藤一二三のひふみん伝説

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 数々の伝説を生み出した加藤一二三・九段(1988年当時)
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 数々の伝説を生み出した加藤一二三・九段(1988年当時)

 数々の伝説を生み出した加藤一二三・九段(1988年当時)

 数々の伝説を生み出した加藤一二三・九段(1988年当時)

 1967年初めに、故大山康晴15世名人と第16期王将戦第3局の将棋を愛知県の旅館「銀波荘」で指した時のことだ。

 対局中、私の右側にある香の駒が跳ね上がった。見ると、なんと将棋盤には割れ目が生じていた。私が力を込めて駒音高く着手していたことが、あるいはきっかけとなったのかもしれない。この逸話は当時の観戦記にも掲載されたので、広く知られるところとなった。

 近年でも「盤を割られたと伝えられていますが本当ですか」と尋ねられることがある。樹齢を重ねている茅の木の、良質な部分から将棋盤の材料は選ばれている。ベテランの職人が盤を制作していることもあり、大きく割れることはまずない。だが、右端上部に割れ目が入ったのは事実だ。空気が乾燥していたのだろうか。すぐに盤を変えて何事もなかったかのように戦いは続き、この対局は私が快勝して、王将戦で大山15世名人に6連敗していたのを食い止めるに至った。

 またこの第3局は、序盤で巧みに指せた私に自信を与えてくれた。そういった意味でも、思い出深い一局である。

 後年、第2期棋王戦五番勝負第1局で、大内延介棋王は挑戦者の私に対大山戦と同一の指し方をしてきた。対大山王将戦と対大内棋王戦は10年経過しているので、大山15世名人に私が勝利を収めた棋譜を知っていたかどうかは分からない。

 いずれにしても私は、棋王戦第1局に快勝して、後、2連勝で第2期の棋王となった。振り返ってみれば、対大山王将戦の経験がものをいう展開となったのが大きかったと思う。

 さらにタイトル戦でのエピソードをもう一つ紹介したい。

 対局の舞台となる旅館やホテルの人たちには大変お世話になり、心から感謝している。関係者にはこまやかな心配りと心遣いをしていただいている。ただ極めてまれなケースだが、自分の中でどうしても気になることがあれば対処してもらってもいる。わずかな雑念も追い払い、眼前の一局に集中したいからだ。

 ある時、タイトル戦の対局室近くに人工の滝があり、水が流れ落ちて大きな音を立てていた。他の宿泊客や観光客が見に来ない状況であることを確かめてから、私はその滝を止めてもらったことがある。

 以後、3カ所の対局場で滝を止めた記憶がある。これはメディアでも頻繁に話題に上る、有名な“ひふみん伝説”の一つとなっている。(加藤一二三)

2016/1/8

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