(1)任期半ばの自死 慣れぬ業務、交流少なく
2013/03/08 16:46
岩手県大槌町の役場庁舎。復興はまだまだ進まず、周りには更地が広がっている
生い茂る雑草と残雪が大津波で流された家々の土台を覆っていた。東日本大震災から2年近くがたつ今も、荒涼とした更地が広がっている。
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岩手県大槌町。今年1月3日、復興支援として宝塚市から派遣されていた男性職員=当時(45)=が、宿舎としていた仮設住宅で自ら命を絶っているのが見つかった。
同5日正午。役場前は喪服姿の人々があふれていた。クラクションを響かせ、亡きがらを乗せた車が通り過ぎる。碇(いかり)川(がわ)豊町長ら職員や住民が合掌して見送る中、男性の妻が車内で一礼した。
男性が大槌町の都市整備課に配属されたのが昨年10月。あと3カ月で任期終了という中での悲劇だった。「ご迷惑をおかけしました」。前日の仮通夜で、妻は職員らに頭を下げ続けた。
宝塚に帰る車中、妻は同乗の市職員に「(理由が)どうしても分からない」と話し、こう漏らしたという。「誰にでも起こり得る事故。そんなふうにしか思えません」
◇ ◇
大槌町役場から車で約45分、周囲に店舗もない同県宮古市の山あいの仮設住宅。12棟82戸に、被災者と全国からの応援職員が入居している。
見知らぬ土地での単身赴任。他の住民との交流はほとんどなかったようだ。ある住民は「応援職員は集まりにも参加しねえから」と言葉少な。静岡市からの派遣職員も「うちは山田町の支援だから、彼のことはよく知らない」とつぶやいた。
男性は部屋のカレンダーの裏に、遺書らしきメモを残していたという。
「皆さまありがとうございました。大槌はすばらしい町です。大槌がんばれ!!」
◇ ◇
「岩手はスノーボードで行ったことがある」。同僚にそう語っていた男性は、宝塚市上下水道局の土木系技術職員として宅地造成などの開発業務を担当。震災直後に給水支援で大槌町を訪れた経験はあったものの、土地区画整理事業の用地交渉の業務は専門外だった。
大槌町は、職員136人のうち前町長ら40人が震災の犠牲になり、行政機能が停止。全国から応援職員を募り、現在は約70人が派遣されている。
昨年2月。宝塚市への要請に、男性を含む2人が手を挙げた。半年交代で、男性は10月以降の残り期間を担っていた。
上司が振り返る。「仲のいい同期が宮城県南三陸町などへ復興支援に赴いたのを見て、役に立ちたいと志願したようだ。物腰は柔らかいが頑固な一面もあり、線が細いタイプではなかった」
職場が壮行会を催そうとしたが、男性は笑って固辞した。「派手なことはいらんです」
◆ ◆
東日本大震災から2年。被災自治体で復興業務に携わる職員らが疲弊している。まちを取り戻そうと駆けつけた人が、なぜ自ら命を絶ったのか。その理由を知りたくて、取材を重ねた。
(安藤文暁、上田勇紀)