自然は独創の宝庫

2013/04/10 17:40

 以前、この欄に「ビジョン&ワークハード」-「しっかりとした長期目標を立て、それを実現するために一生懸命働く」ということを書きました。研究生活はまさにその通りで、長期ビジョンに向かって、いくつもの実験を行います。一つ一つの実験では、仮説を立て、それを検証しますが、仮説通りの実験結果が得られることはほとんどありません。野球なら3割打てば大打者ですが、研究の世界では2割成功すればすごい研究者といえます。つまり、8割から9割の実験は失敗といってもいい。問題は、その結果をどう受け止めるか、です。

 私にも強く印象に残った実験がいくつかあり、仮説とは全く違う、思いがけない実験結果となったことがありました。その時、がっかりした以上に、ワクワクしたことをはっきりと覚えています。そして、失敗した実験の一つを発展させていったところ、やがてiPS細胞の開発につながっていく研究へと結びついたのです。一見失敗にみえる実験結果を面白がったり、素直に「すごい!」と思える感性があれば、そこから何か新しい発見につながるかもしれません。
 私自身の経験や研究室のメンバーの実験結果を見て思うのは、自然は、人間の思考能力をはるかに超えて、独創的だということです。ですから、仮説に反していても、あるがままの実験データを受け止め、研究を続ければ、おのずから独創的な次のステップに進めるのではないでしょうか。失敗と思った実験から、新たな着想を得て、研究の方向を転換する。「人間万事塞(さい)翁(おう)が馬」ではないですが、何が幸いするかわかりません。だから、若い人たちは挫折や失敗に一喜一憂しないで、夢の実現に向けて粘り強くにチャレンジしてほしいと思っています。
(山中 伸弥=京大iPS細胞研究所所長・教授)

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