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シリーズ25 痛みと闘う

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「日本では痛みが原因の失業や休職で年間3700億円が失われているという推計もある」と話す前田倫部長=西宮市林田町
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「日本では痛みが原因の失業や休職で年間3700億円が失われているという推計もある」と話す前田倫部長=西宮市林田町

  • 「日本では痛みが原因の失業や休職で年間3700億円が失われているという推計もある」と話す前田倫部長=西宮市林田町

「日本では痛みが原因の失業や休職で年間3700億円が失われているという推計もある」と話す前田倫部長=西宮市林田町

「日本では痛みが原因の失業や休職で年間3700億円が失われているという推計もある」と話す前田倫部長=西宮市林田町

  • 「日本では痛みが原因の失業や休職で年間3700億円が失われているという推計もある」と話す前田倫部長=西宮市林田町

痛みは「病」と捉えて 我慢や放置で重症化も

 病気やけがを憂鬱(ゆううつ)に感じる大きな理由は「痛み」だ。中でも、治癒に必要とされる期間を超えて痛みが続く「慢性疼痛(とうつう)」は、完治が難しく生活の質(QOL)を著しく低下させる。慢性疼痛の患者は国内に推計1700万~2300万人いるとされるが、治療中の患者のうち「満足いく程度に痛みが和らいでいる」と答えたのは4分の1に満たないという調査結果もある。

 治療法を正しく理解するため、日本ペインクリニック学会認定の専門医を育てる指定研修施設の一つ、西宮市立中央病院麻酔科・ペインクリニック科の前田倫(りん)部長(53)に、痛みの種類や痛みを感じる仕組みを聞いた。

■急性と慢性

 痛みは、それを感じる期間によって「急性」と「慢性」に分けることができる。

 急性は切り傷や骨折、感染症、内臓疾患など炎症が引き金になって起きる「侵害受容性疼痛」で、炎症が引けば痛みも消える。一方、慢性はがん以外の原因でおおむね3カ月以上続く痛みを指す。炎症が長引くことで神経機能が変化するほか、病気やけがで神経そのものが傷つく「神経障害性疼痛」、不安やストレスなど心理・社会的な要因によって起こる痛みなどが複雑に絡み合う。

 「急性の痛みは症状の一つで、警告信号として重要な役割を果たす。しかし、慢性疼痛は警告の役割を終えており、有害なだけ。痛みそのものを『病』と捉える必要がある」と前田部長。

■電気信号

 そもそも人は、なぜ痛みを感じるのか。体に傷や熱などの刺激が加わると、細胞から痛みを引き起こすさまざまな化学物質「発痛物質」が放出される。それが末梢(まっしょう)神経の末端「自由神経終末」に備わった受容体にくっつくと、電気信号の発生を促すタンパク質の一種「ナトリウムチャネル」が開き、電気の素「ナトリウムイオン」が自由神経終末内に一気に流れ込む。前田部長は「発痛物質を鍵、受容体を鍵穴、ナトリウムチャネルを扉に例えると分かりやすい」と指摘する。

 発生した痛みの電気信号は、感覚を伝える神経線維が集まる「脊髄後角(こうかく)」を通って大脳皮質へ。大脳皮質が痛みの程度や発生場所を認識する。

 これが炎症によって起こる侵害受容性疼痛の仕組みで、通常は炎症の終息に合わせて痛みも引いていく(急性疼痛)。けがや病気による炎症が消失しているのに痛みが続く慢性疼痛は、神経が長い間、繰り返し刺激を受けた結果、痛みに対する反応が過敏、過剰になる「神経感作(かんさ)」が起きていると考えられている。前田部長は「痛みを我慢したり放っておいたりすればするほど、神経感作が起きる危険性が高まる」と警鐘を鳴らす。

■睡眠障害も

 神経感作は、脊髄と脳から成る「中枢神経」と、中枢神経から枝分かれして全身に分散している「末梢神経」の両方で起きるという。

 まず末梢神経では、痛みの電気信号が大量に発信されることでナトリウムチャネルが異常増殖したり、信号が脊髄で反射して逆行したために発痛物質がさらに放出されたりして、痛みを感じる刺激の限界点が下がるとされる。

 一方、中枢神経も末梢神経の過剰興奮を受けて、痛みに対する反応が過敏に。脊髄後角内では、本来痛みとは関係のない情報を伝える神経線維が痛みまで伝えるようになるほか、神経機能の制御に関わる細胞が活性化して神経細胞を興奮しやすい状態にするという。さらに、脳から脊髄に向かって作用している痛みの抑制システムも働きにくくなるといわれる。

 「こうした現象が重なって続くと、神経の構造や機能がゆがんで元に戻らなくなる」と前田部長。患部に軽く触れたり風が当たったりしただけで激痛が走る感覚異常「アロディニア」に陥ると、「ロキソプロフェン」(商品名ロキソニン)や「ジクロフェナク」(同ボルタレン)など通常の鎮痛薬では、改善しなくなる。

 治療効果が得られないという失望は精神面にも悪影響を与える。神経から来る中等度以上の痛みが慢性化した患者のうち、60%は睡眠障害を、36%は抑うつを、18%は食欲不振を併発しているという調査結果がある。痛みのために活動量が落ちることで筋力低下や関節の硬直を招き、さらに活動量が落ちる悪循環にも陥りやすい。

 前田部長は「一時的でも痛みを緩和できれば、QOLの維持や向上につながり、重症化を防ぐこともできる」と、早期受診を呼び掛ける。

あらゆる痛みを診断・治療
 ペインクリニック受診先の選択肢に

 「ペインクリニック」とは、体の部位を問わず、あらゆる痛みを診断・治療する診療部門や医療機関のことだ。患部に局所麻酔薬などを注射して痛みを和らげる「神経ブロック」を受けられるのが特徴で、基本的に麻酔科医が治療に当たる。

 しかし、世間でのペインクリニックの認知度は高くない。2006年に日本薬理学雑誌に掲載された論文によると、慢性疼痛(とうつう)で通院している約560人に診療科を尋ねたところ、ペインクリニックはわずか0・8%。整形外科が45%で最も多く、一般内科(21%)、医療機関以外の整体・マッサージ(15%)、接骨院(12%)と続いた。

 一方、製薬会社ファイザー(東京)とエーザイ(同)が昨年6月、慢性疼痛を抱える全国9400人から回答を得たインターネット調査では、全体の74%(兵庫県内の80%)が「痛みがあってもある程度、我慢すべき」と回答。50%(県内の49%)の人は過去5年以内に通院した経験がないことも分かった。

 神戸大医学部付属病院(神戸市中央区)麻酔科・ペインクリニック科の高雄由美子医長は「日本人は我慢を美徳とするが、痛みを我慢しても良いことはない」とし、「早く適切に対処することで、慢性化を防げる可能性が高い。まずはペインクリニックを受診先の選択肢に加えてほしい」と呼び掛ける。

腰痛患者が大多数 痛みの半減を目標に

 慢性疼痛(とうつう)に分類される具体的な病気は、痛み止めで治らない腰痛や脚の痛み、頭痛、帯状疱疹(ほうしん)による皮膚炎症が消えた後も続く痛みなど数多い。

 ペインクリニックでは、これらの病気に加え、がんによる痛みのほか、痛みの症状はないものの、局所麻酔薬を注射する神経ブロックが有効な顔面神経まひにも対応する。

 慢性疼痛の中で、患者の訴えの割合が最も高いのは腰痛だ。腰痛は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄(きょうさく)症など目で見て分かる器質的な異常がある「特異的腰痛」と、器質的な異常がなく原因が特定できない「非特異的腰痛」に分けられる。腰痛患者全体のうち85%は後者という。

 非特異的腰痛の治療は薬物療法を中心に、神経ブロックや運動療法などを組み合わせるのが有効とされ、医療機関なら基本的に公的医療保険で治療を受けられる。ただ、腰痛を含む慢性疼痛は全般的に、治療しても痛みを完全になくすことは難しいとされている。

 西宮市立中央病院麻酔科・ペインクリニック科の前田倫(りん)部長は「私たちが現時点で目指す慢性疼痛治療の目標は、今ある痛みを半減させ、日常生活が送れるよう患者を導くこと」とする。(坂口紘美)

■慢性疼痛に分類される主な病気■

・痛み止めで治らない腰痛や脚の痛み

・痛み止めで治らない頭痛

・帯状疱疹(ほうしん)による皮膚炎症が消えた後も続く痛み

・糖尿病の神経障害から来る痛み

・顔面が痛む三叉(さんさ)神経痛

・事故などによるけがが治った後も消えない痛み

・脳卒中の治療後に続く痛み

・脊柱管狭窄(きょうさく)症や椎間板ヘルニアなどが原因で脊髄が圧迫されて起こる痛み

・関節リウマチ

・変形性関節症

・首や肩、腕の痛みが長引く頸肩腕(けいけんわん)症候群

・原因不明だが全身が痛む線維筋痛症

・切断してなくなった腕や脚が痛む幻肢痛

2013/1/5

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