(6)山の学校 懐に抱かれ模索する生徒
2015/07/30 11:56
7月9日。還暦の誕生日を迎えた中井さんにケーキを手渡す右田君=宍粟市山崎町、県立山の学校(撮影・峰大二郎)
低迷する材価と減り続ける林業労働者。このままでは山が立ちゆかなくなる-。
1993年、兵庫県立山の学校(宍粟(しそう)市山崎町)が開校した背景には、県のそんな危機意識があった。1年間の全寮制男子校。15~20歳の若者が、宍粟の自然で感性を育み、林業の基礎を学ぶ。卒業後、後継者として羽ばたいてくれれば万々歳…というわけだ。
22年後。全国でも珍しいその学校は、少し様子を変えていた。
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6月中旬。日が照りつける同市内の千種川沿いの道を、14人の生徒がひたすら歩く。2泊3日で77キロを踏破する、恒例の千種川縦走だ。
「元気のなかった生徒たちも、これをやり遂げると自信が芽生えるんです」とほほ笑む校長の三輪智英さん(54)。
元気がない?
この10年ほど、同校は引きこもりや不登校の生徒を受け入れる「フリースクール」の側面が強まっている。高校卒業資格の単位も得られるため、進学を目指す中途退学者も多い。
「ここではまず、人としてどう生きるかを教える。そしたら、将来も見えてくるやろ」。開校時から教える中井嘉昭さん(60)。名物先生の言葉に遠慮はない。
授業をのぞくと、大半は机に突っ伏している。記者が現れても、こっちを向いてはくれない。
それでも炎天下を一緒に歩くうち、少しずつ素顔が見えてきた。右田聖童(せいどう)君(17)は神戸市西区出身。中学では髪を金色に染めて遊び回り、高校も1年で辞めた。
勉強は嫌いではない。かつての同級生を思うと、焦る。「自分の将来めっちゃ怖いねん」。もう一度やり直したい。そう考え、ここに来た。
規則正しい寮生活、山での実習。戸惑った。だが右田君は「今の俺には『続けること』が必要」と踏ん張る。
「昔は人間のくずや言われて、先生にも無視されとったけど、ここでは怒ってくれんねん。マジでちゃんとせなあかんと思う」
傷めた足を引きずり、全行程を歩き切った。
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木材工場の見学や森林の下草刈り、木の伐採まで。彼らは一通りの山仕事を経験する。
今年初めて、実習で作った木製ベンチを東日本大震災の被災地に届けようと計画。宍粟の市役所や林業関係者らに、協力を求めている。
「お前ら、ええ経験しとるんやで。一生忘れんなよ」。千種川縦走のビデオを見ながら、中井さんが冗談めかして言った。「忘れたらいつでも帰ってこい」
林業の道へ進む卒業生はもうほとんどいない。しかし、山の懐に抱かれた日々は、その後の人生を潤すに違いない。
(黒川裕生)