(5)若手育成 「3A」職場へ転換目指す
2015/07/29 11:14
先輩や上司にかわいがられる、入社2年目の前田隼輔さん(左)=宍粟市一宮町東河内(撮影・峰大二郎)
夏山の緑は濃く、染河内(そめごうち)川の流れが涼しさを運ぶ。
午前6時50分、宍粟(しそう)市一宮町。事務所の前に20人余りの男たちが円陣を組んだ。
「暑いので体調管理を」「大型車の点検を忘れずに」
森林整備や造園を手掛ける会社「グリーン興産」の朝礼だ。各現場の責任者から、注意事項や業務連絡が飛ぶ。
輪の中に1人、熱心にメモを取る男性がいた。昨年4月に入社した前田隼輔(しゅんすけ)さん(27)。「書いとかな忘れるで」と照れ笑いを浮かべた。
夕刻。山から戻った男たちの談笑の輪に、また隼輔さん。「どや、安いで」「借りるより絶対得やん」。先輩たちから中古住宅の購入を迫られ、「勘弁してくださいよ」と苦笑いで逃げ回っていた。
東隣の兵庫県神河町出身。高校卒業後、瓦職人や工場の仕事を経て、知り合いのつてで入社した。林業は「年配の人の仕事」と思っていたが、来てみて驚いた。従業員25人のうち、10~30代がほぼ半分。「優しいしてもらえるし、居心地がいいです」
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保全や造林など、今に通じる「林業」が始まったのは、江戸時代とされる。職人の世界だ。新人は「技は盗め」と言わんばかりの先達の背中を見て、技術を身につけた。
「そんなことしても、どもならんで」。山を歩きながら、同社専務取締役の前田将吾さん(43)は打ち消した。「私らもすぐ年を取るで、若い人には早う覚えてもろた方が戦力になるでねえ」
この会社では先輩が一対一で仕事のいろはを教える。チェーンソーや重機の使い方を学ぶため、一日中丸太の輪切りをさせることもある。「隼輔もやったよな」。不意に話を振られた隼輔さん、目が泳いだ。「あ、お前さてはやっとらんな」。山に笑い声が響いた。
「林業を3K(きつい、汚い、危険)の仕事から『安全、安心、安定』の3Aに変えたい。そうせんと、若い人がおらんようになるでね」
社長の石原武典さん(60)の危機感は強い。林業関係の会社で約10年勤め、36歳で独立。従業員は当初10人ほどだったが、積極的に若手を雇用。家族経営に近い業者が多い中、宍粟では珍しい大所帯に成長した。
昨年から、地域で親子向けの山のイベントを始めた。普通なら山に捨て置くような不良木やボサ(枝葉)、タンコロ(根元)もきちんと処分する。
「地元の人たちに『山がようなってきた』と思ってもらえれば、林業がもっと活気づくし、継続もできる」。石原さんの言葉に力がこもる。
隼輔さんは昨年7月に結婚し、宍粟市内のアパートに越してきた。もうすぐ男の子が生まれる。
(黒川裕生)