(1)胎動 林業の里 活気再び
2015/07/25 12:52
「しそう」。難読地名で知られる兵庫県宍粟市。県西端に位置し、豊岡市に次ぐ県内第2位の面積を誇る。その9割を山林が占め、木材生産量は県内一。シリーズ「兵庫で、生きる」第1部の舞台は、長い低迷期を経て今、林業再生に向け、胎動する宍粟。記者が1カ月、「森の国」に入った。
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ヴヴ、ヴウウン!
標高約700メートル。涼しさを感じる森の中。チェーンソーがうなりを上げる。
メキッ、メキメキ…。
高さ20メートル以上のスギが根元近くからへし折れていく。作業開始から1分足らず、倒れた大木が地を打った。
生まれて初めて見る林業の現場だ。ここまではイメージ通り。だが、すぐに未知の作業が始まった。
作業道に控えていた重機が木をつかみ上げる。測尺、玉切り、枝払い。すなわち長さを測って切りそろえ、枝を落とす。一連の作業を1台で一気に。“商品”の丸太になるまで10分かからない。
最近、急速に普及した高性能林業機械。森の作業風景を一変させたという。
かつてはワイヤを張り、木をつり下げて搬出する「架線集材」が一般的だった。
「架線は今もあるけどな、そらもう全然違うで。道と機械のおかげで効率が6、7割は上がったな」。林業家に教わる。
一歩、山を出る。木材を積んだトラックが盛んに行き交う。
この地なら当たり前。気にも留めないところだが、「一時は絶えかけていた光景です」と市林業振興課長の坂口知巳さん(54)。「最近やっと、看板通りのまちに戻ってきた」と目を細める。
地元の木材市場。今期、取扱量が過去最高を記録したらしい。
今、森で何かが起きている。
◇ ◇
チェーンソーを抱え、急な斜面をひょいひょいと行く。
小林温(おん)さん(62)=一宮町。約125ヘクタールの山林を所有する「自伐(じばつ)林家」だ。大学卒業後、会計事務所で勤めたが、30歳のとき、祖父が育て上げた広大な山林を継いだ。
「林業を始めた当初は、『なんちゅうボロい仕事や』思うたね」
木は高く売れた。面白いように資産を築いた温さんは、アパート経営にも手を広げた。
だが、風向きはすぐに変わる。
外国産の安い木材に押され、材価は急落。今では30年前に比べ3分の1ほど。山主は山への関心を失い、林業離れが相次いだ。
「割に合わん仕事やでな。今はもう継ぐ人のおる林業家なんて、ないで」
◇ ◇
長い間、忘れられてきた森。そこに、新たな可能性が生まれているのか。6月、半信半疑のまま、取材は始まった。
まずは、温さんの仕事場へ。そこには、くだんの高性能機械を自在に操る20代夫婦の姿があった。(黒川裕生)