(8)シカ害 苗激減「樹の高齢化」深刻
2015/08/02 16:50
立ち止まりこちらの様子をうかがう2頭のシカ=宍粟市一宮町東河内(撮影・峰大二郎)
薄茶色の背、まん丸い目。立ち止まり、じっとこちらをうかがう。
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宍粟(しそう)市一宮町の山中。20メートルほど先の斜面に2頭のシカがいた。瞬間、身を翻し森の中に消えた。
宍粟に約1カ月滞在している間、どうしてもシカが見たかった。というのも、どの林業関係者と会っても必ず被害の話になるからだ。「増えすぎだ」「木を植えても全部食われる」…。
だが「よく出る場所に案内してほしい」と頼むと、「どこにでもおる」と笑って相手にしてくれない。
森林整備などを手掛けるグリーン興産(一宮町)部長の芦谷直記さん(47)を拝み倒し、車を出してもらった。山に入って20分。確かにすぐ出合えた。
一見愛らしいこの動物が今、林業の天敵として、山を跋扈(ばっこ)している。
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県内のシカ害が問題化したのは、1980年代以降。好物だったササなどの下層植物が減ったため、スギやヒノキの苗木を食い荒らす。かつては野生動物として保護の対象だったことも、爆発的な繁殖を招いた。
宍粟の人工林の樹齢別構成比は衝撃的だ。1~15年生がわずか2%とほとんど根付いていない。対照的なのは46年生以上で、実に49%。「人間と同じ少子高齢です」と市の担当者は自嘲気味に笑った。
防護柵の設置も進むが、思うように効果は出ていない。このまま間伐を繰り返すと、いずれ山から木が消える。
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有害鳥獣の駆除を担うのは、主に猟友会。同会宍粟支部の段克史さん(39)=山崎町=を訪ねると「シカの増加は止まったという認識だ」と意外なことを口にした。
目撃情報を基に推算されるシカの頭数は、全容把握が難しい。県は本年度の年間捕獲目標を3万3500頭に設定し、宍粟でもここ数年は3千~4千頭を駆除。これで「均衡が保たれている」のが同支部の実感らしい。
むしろ段さんが危ぶむのは、猟友会員の減少。同支部の平均年齢は70歳を超え、40年間で約千人から172人に。「本気でシカを減らしたいなら、まずハンターを増やさないと」
低脂肪の肉を食用に加工する試みも広がる。柴原精肉店(一宮町)は約3年前からブロック肉などを販売。猟友会と連携して月10~15頭をさばき、神戸などの都市部でもよく売れている。
「鮮度のいいものは獣臭さもない。家庭に普及すれば採算が取れる」と意気込む店主の柴原政司さん(50)。ハンバーグをいただいた。淡泊だが肉の風味が強く、いける。ただ、駆逐を後押しするにはいかにも足りない。
後手に回ってきたシカ対策。いびつな樹齢構成という“時限爆弾”が火を噴くとき、林業はまた難しい局面を迎えることになる。
(黒川裕生)